NPO法人「安房文化遺産フォーラム」は9日、千葉県館山市で「ハングル『四面石塔』400年記念コンサート&シンポジウム~平和への祈り」を開催した。第3次朝鮮通信使を契機に建立された「四面石塔」を記念したこのイベントを通じて、これまでの韓日親善の歴史を振り返る。
■韓日親善の歴史を回顧
NPO法人「安房文化遺産フォーラム」(愛沢伸雄・池田恵美子共同代表)は9日、館山市の浄土真宗大巌院(石川龍雄住職)で四面石塔の見学会と奉納コンサートを開催。同市の南総文化ホールで歴史シンポジウム「四面石塔の謎をさぐる」を行った。計230人が参加した。
千葉県指定有形文化財として大巌院に現存する「四面石塔」には、和風漢字・中国篆字・印度梵字・古ハングルの4種の文字で「南無阿弥陀仏」と彫られている。東面に刻まれた初期ハングル字体(『東国正韻』式の字形)が特徴的で、韓国でも初期ハングルで刻まれた石碑は極めて少ない。
大巌院は雄誉霊巌(おうよ・れいがん、1554~1641)上人によって1603年に開かれた。「四面石塔」は24年に境内に建立。同年に行われた第3次朝鮮通信使までは、豊臣秀吉による出兵の戦後処理、韓半島との交流促進(再開)を目的にしていた。江戸幕府は事業を主導し、日本に連行された半島の人々の送還を行った(回答使兼刷還)。
「四面石塔」には、当時を生きた人々の平和への祈りが込められている。
■大巌院でコンサート開催
公演に先立ち、安房文化遺産フォーラムの池田共同代表は「四面石塔」についての説明を行った。大巌院本堂に入ってすぐ正面真上に掲げられた扁額は「位の高い人しか書けない文字」で、朝鮮通信使関係者がその筆跡の美麗さを称えた逸話が残っていると紹介。大巌院の石川住職も共催者としてあいさつした。
その後、在日2世の李政美さんがピアニストの竹田裕美子さんと共演し、奉納コンサートを行った。李さんは両親が済州島の出身で、長男が館山からも近い鋸南町の保田に住んでいた関係で、海にゆかりのある曲「セノヤ」などを披露した。
■南総ホールで歴史シンポ
南総文化ホールでは、シンポジウム「四面石塔の謎をさぐる」が開かれた。
はじめに池田・愛沢共同代表が主催者あいさつを行った。次いで、早川正司・房総石造文化財研究会会長が「『四面石塔』についての回想と所見」、石川達也・大巌院副住職が「雄誉霊巌上人の生涯」、滝川恒昭・敬愛大学教授/里見氏研究会会長が「雄誉霊巌と里見氏」、永渕明子・韓国語講師(翻訳家)が「『四面石塔』から日韓の架け橋に」と題して発表。最後に、愛沢共同代表が「大巌院ハングル『四面石塔』の謎をさぐる」をテーマに講演した。登壇者全員によるディスカッションの場も設けられた。
それぞれの講演では、雄誉霊巌上人の生涯や事績の紹介、「四面石塔」に刻まれた文面から浮かび上がる韓日関係史の考察などが行われた。
講演会に参加した河正雄・光州市立美術館名誉館長は、「奇しくも来年は、戦後80年・韓日国交正常化60周年を迎える。その前年に、今日のイベントが開催されたのは実に喜ばしい。漢字・篆字・梵字・ハングルで刻字されている『南無阿弥陀仏』は国際平和のメッセージと言える。改めて、『四面石塔』の持つ平和の意味を深く考える時代になることを祈念している」と語った。
石井浩己・館山市教育委員会教育長は、「安房文化遺産フォーラムは館山にとって大切な活動を進めてくれている。海を通じた交流はこの地に根づいた文化の最も象徴的なもの。今日のような集まりを機会に、これから韓国との友好がより広まっていくことを期待している」と述べた。
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大巌院の「四面石塔」