北韓で7日、最高人民会議第14期第11回会議が開催された。最高人民会議は日本では国会に相当するが、北韓は朝鮮労働党が支配政党として全ての政策を立案、決定する。
最高人民会議は労働党の方針を追認する機関に過ぎない。金正恩総書記(国務委員長)も代議員ではなく、労働党の会議に比べると重要度は低いが、今会議ではある方針が法制化されるかどうかに注目が集まった。金正恩氏の「断韓方針」である。
金正恩氏は昨年12月に開かれた労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議で、「吸収統一、体制統一を国策と定めた大韓民国の連中とは、いつになっても統一が実現しない」「北南関係はこれ以上、同族関係、同質関係ではない敵対的な両国関係、戦争中にある両交戦国関係に完全に固着された」と主張。
年が明けて2024年1月に行われた最高人民会議の施政演説では、「ほぼ80年間の北南関係史に終止符を打ち、朝鮮半島に並存する二つの国家を認めたことに基づいて、わが共和国の対南政策を新しく法化した」としながら、韓国を「徹頭徹尾、第一の敵対国、不変の主敵」であると強調した。
韓国とは統一しない、韓国は敵国として永遠に対峙すると宣言した。最高人民会議で金正恩氏の「断韓方針」がどれだけ反映されるかに注目されたが、会議を伝える報道では詳細が明かされず。あえて公表しなかったのか、それとも法制化するには整理ができていないのかは不明だが、金正恩氏の「反統一」「断韓」姿勢が変わることはないだろう。
実は、最高人民会議初日である7日に金正恩氏は創立60周年を迎えた「金正恩国防総合大学」(2016年に国防大学から改称)を訪問した。金正恩氏は記念演説で、なぜか韓国に対して次のように呼びかけた。「賢明な政治家であるなら、国家と人民の安全に関して無分別に振る舞うのでなく、核保有国とは対決と対立より軍事衝突が起こらないように状況の管理に力を入れ、苦心することでしょう。それが自国の安全のためにも絶対的に正しい選択であり、有益な姿勢であるからです」「大韓民国が安全に生き残る方法は、われわれが軍事力を使用しないようにすることです」と、いささか上から目線だが「核保有国と戦争するのはあり得ないだろう」と諭したつもりのようだ。「わが共和国を攻めるようなことは考えないでくれ」という嘆願のメッセージにも聞こえる。
また、金正恩氏は、「われわれには大韓民国を攻撃する意思が全くありません。意識することすら身の毛がよだち、そのような人間たちとは顔を合わせたくありません」「(以前は)武力統一についても口にしましたが、今はそれに全く関心がなく、二つの国家を宣言してからは、なおさらその国を意識もしていません」などと、重ね重ね韓国に対する拒否感を示した。
金正恩氏は、南北の体制競争に勝ち目がないことを悟っているようだが、白旗は揚げられない。それならばと、北韓を徹底的に封鎖。自らが王として君臨する国家体制を建設する野望、いや妄想に囚われているようだ。
高英起(コ・ヨンギ)
在日2世で、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。著書に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』など。