半導体受託製造(ファウンドリー)世界2位のサムスン電子と同首位の台湾積体電路製造(TSMC)はそれぞれ、アラブ首長国連邦(UAE)に製造工場を建設することを計画している。世界有数の産油国であるUAEは先端技術への投資に注力してきたが、2031年までに人工知能(AI)立国となる目標を掲げ、半導体生産へも乗り出そうとしている。
すでにサムスン、TSMCの幹部がそれぞれUAEを訪れている。各社個別に協議し、工場建設の可能性を話し合った。同国のアブダビに拠点を置く政府系ファンドのムバダラ・インベストメントがプロジェクトの中心的な役割を果たし1000億米ドル(約14兆円)以上の投資を予定している。
サムスンは数年のうちに工場建設を計画。TSMCは台湾内で最大規模と同等の工業団地整備を検討している。しかし協議はいずれも初期段階で、技術面などの問題で実現しない可能性もある。
UAEの位置する中東はこれまで製造工場として想定されてこなかった地域だ。従来の半導体供給網と離れている上に、製造過程で必要な産業用水と専門人材の確保が難しい。一方で安価な電気料金と、オイルマネーを裏付けにした資金力は強みとなっている。
半導体製造工場の誘致を進める背景には先端技術分野の強化とともに、世界的に注目されるAIの需要を満たそうという狙いがみられる。UAEは17年に「UAE国家AI戦略2031」を発表。AIを基盤にエネルギー、物流、観光、ヘルスケア、サイバーセキュリティーなどの産業を育成し、「31年までにグローバルAIリーダー国になる」という目標を掲げている。
UAEの国営AI企業G42がセレブラス(米)と協業しているほか、アブダビの技術分野専門投資会社MGXは、資産運用会社のブラックロック(同)やソフトウエア開発のマイクロソフト(同)とともに最大1000億米ドルともされる資金調達を行い、ハードとソフト両面で幅広くAIへの投資を進めている。グローバルで半導体の生産を増やすと同時に、製造会社の収益性を損なわない範囲で半導体価格を下げることを目的にしている。
UAEだけでなく、世界ではドイツ、チェコ、ベトナムなどが積極的に半導体工場の誘致に取り組んでいる。台湾、韓国、米国、中国、日本などが主導権を握ろうと、熾烈な投資合戦を続けている。
他方、UAEへの進出には懸念もある。米国は「先端技術が中国へ流出するのではないか」との疑念を捨てきれずにいる。これについてUAEは米国に対し、サムスンとTSMCの工場のほか、物流過程を監督できるようにする案を米国と議論したとされる。
UAEでの計画についてTSMCは「半導体産業の発展を促進するための建設的な議論に当社は常に前向きだが、既存の世界的な拡張プロジェクトに引き続き注力しており、現時点で公表する新たな投資計画はない」との発表文を出している。
サムスンはコメントを控えている。