北韓がウラン濃縮施設を初めて公開した。北韓国営の朝鮮中央通信(KCNA)は、金正恩総書記が「核兵器研究所と兵器級核物質生産基地を現地指導した」と報じた。
金正恩氏は施設を見て回りながら「本当にここは見るだけでも元気が出る。わが党の核戦力建設路線を進め自衛の核兵器を可及的速やかに増やすには、われわれは現在の成果に自己満足せず遠心分離機の台数をより多く増やすとともに遠心分離機の個別分離能力を一層高め、すでに完成段階に至った新型の遠心分離機の導入も計画通りに推し進めて兵器級核物質の生産土台をより一層強化しなければならない」と強調した。
「民生用、平和利用」と言い訳するのではなく、あたかも「我々の核製造能力を見よ!」と誇示するかの如く、施設は核兵器を製造するためのものだと認めた。
北韓のウラン濃縮施設の存在は認知されてきたが、施設が公開される意味は極めて大きい。ウラン濃縮疑惑がささやかれはじめるのは、おおよそ2003年頃である。濃縮用の遠心分離機に必要なアルミニウム管をドイツ経由で大量購入しようとしたが、エジプト沖で押収されたり、核兵器(核弾頭と弾道ミサイル)開発で関係を築いていたパキスタンのカーン博士を通じて遠心分離機のノウハウを得た疑惑など、北韓の極めて危険な核開発の実態を掴むべく、多くの国家が分析、検証した。
一方、10年11月に米国の核物理学者ジークフリード・ヘッカー氏率いるスタンフォード大学の学者らによる訪朝団が、北韓の遠心分離機の視察を許可された。ヘッカー氏は当時、ニューヨーク・タイムズ紙に「非常に現代的で洗練されたコントロールルームに分離機が設置されており::驚がくした」とコメントし、米政府に報告したという。
「核兵器」「核兵器入門」などの著書がある素粒子物理学者の多田将氏(高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所准教授)に、公表された写真を見てもらったところ、「北韓は12年の段階で、遠心分離機6700台分のマルエイジング鋼を輸入しており、これくらいつくれる。施設は近代的で整備されている。真新しいのでこれから稼働するかもしれない」と述べた。多田氏は、北韓の核実験や弾道ミサイル発射実験を極めて客観的、正確独自の視点で研究してきており、その分析と検証は極めて信頼に値する。もちろん、施設はカモフラージュや見せるためだけの施設ではなく、稼働するだろう。
金正恩が核施設を公開した狙いについて、大統領選挙を控えた米国に対するけん制という見方が大勢だが、それに加えて韓国に対する「誇示」があるのではなかろうか。尹錫悦政権は対北韓強硬姿勢を貫いている。新就任の金龍顕国防長官も、北韓が挑発すれば「即時に、強力に、終わらせる」と強調するなど、北韓に一歩も引かない姿勢を表明している。
さらに、韓国では核武装を求める声も上がっている。南北統一を否定した金正恩としては、目下の敵国「大韓民国」に対して「我々の核開発に追いつけるものなら、追いついてみよ!」と誇示したいのかもしれない。