北韓でまたもや水害が発生した。7月27日、台風3号(ケミ)のもたらした湿った空気が梅雨前線を刺激したことで大雨が降り、鴨緑江やその支流の流域で浸水が発生し、死者が少なくとも1000人、一部報道によると2500人を超えるなど、甚大な被害が発生している。
金正恩総書記は翌28日に、新義州市と義州郡の被災地を訪れたが、それ以外の地域の被害も甚大だと伝えられてきた。咸鏡北道のデイリーNK内部情報筋によると、東海岸の清津では、下水道の逆流が起きた。路上のマンホールから水があふれ、民家のトイレも水が逆流した。
「通り一帯は糞尿まみれになり、市民は鼻をつまみ、糞尿を避けて歩くのに必死だ」という。平素から腸チフス、パラチフス、コレラなど水が原因となって広がる感染症が発生している北韓で、逆流した下水、糞尿まみれの道は深刻な問題だ。道が乾くと、病原菌が空気中を漂い、風に乗って遠くまで運ばれ、感染を広げる。見えるところは徹底的にきれいにしようとするのに、見えないところには気を使わないのが北韓だが、今回の事態を受けて重い腰を上げた。
清津市人民委員会(市役所)は、水害により問題が明らかになった市内の下水道網の全面点検を実施し、その改善に乗り出した。
「下水道によりすべての衛生が悪化し、住民の健康が脅かされている。この問題を解決するために総力を傾けるべきだ」(市の担当者)とし、人民委員会はまず、下水道の詰まりを解消し、道路にあふれる糞尿を片付ける作業を行っている。また、民家のトイレ、共同トイレなどを周り、液体または粉末の消毒薬を散布している。
同時に、住民を対象とした衛生教育を実施している。市内のすべての機関、企業所、朝鮮社会主義女性同盟(女盟)に対して、「水道管から泥水が出ている、そのまま飲むと下痢や食中毒になる、しばらく置いて異物や泥を沈めた後、煮沸して飲まなければならない」などと教育している。どうやら上水道にも汚染が広がってしまっているようだ。
できることはすべてやってはいるものの、水道管の老朽化が著しく、全体を交換しなければ下水道の逆流問題は今後も続くだろう。「いったい、いつになったら雨が降っても下水のことを心配せずに暮らせるようになるのだろう」(情報筋)。
清津の水道だが、日本の植民地支配下にあった1921年の朝鮮総督府資料に、「清津水道」の文字があることから、敷設はそれ以前のことと見られる。
その後、水道管の交換などが行われたかは不明だ。なお、北韓では首都・平壌近郊の、平安南道の山間部やその南にある黄海北道の遂安、新渓、谷山は、極端に貧しく、これまでの歴史で一度も上水道の恩恵を受けたことがなく、大都市の清津はまだマシな方だ。
ちなみに北韓で安全な水へのアクセスが確保できているのは、調査によって異なるものの、全人口の6~7割ほどと見られる。