国際機関である世界銀行は、「中所得国の罠(middle-income trap)」と題する報告書で、「韓国の1人当たり国民総所得は1960年には1200ドルにも満たなかったが、昨年は3万3000ドルに迫った。韓国は、成長のスーパースターである。全ての中所得国の政策立案者が必ず熟知しなければならない必読書である」と評した。
一方で「古い制度や慣習の創造的破壊が経済成長を引っ張る。今のように先進国病に陥り、しかも構造改革のゴールデンタイムまで逃してしまえば、韓国経済の成功神話はいつしか完全に過去の話になってしまうだろう」との懸念を示している。
さて、今回は、上述した点とは少し異なる視点から韓国の実情を眺めてみたい。韓国では高額資産家の海外移住が増えており、今年の韓国の富裕層の純流出は世界で4番目に多いとの見方が示されている。
英国の投資移民コンサルティング会社であるヘンリー・アンド・パートナーズは、「2024年版・個人資産移住リポート」を発表したが、韓国の高額純資産保有者の純流出が今年は1200人で世界4位を記録すると予想している。
高額純資産保有者の流出入は流動性投資可能資産を100万米ドル以上保有した富裕層が他国で6カ月以上滞在する場合を基準にしている。
このレポートによると、韓国よりも純流出人数が多いと見込まれるのは、中国本土(1万5200人)、英国(9500人)、インド(4300人)の順となっている。
韓国からの純流出は22年の400人から23年には800人に倍増して世界7位になり、今年は更に50%増加し、過去最多になると見られている。
韓国の富裕層の主な移住先は米国、オーストラリア、カナダなどとなっており、「自国を捨てて、先進国に行く富裕層が増えている」ことが改めて示されたと韓国国内では見られているのである。
一方、韓国国内で正規雇用されている人のうち、10人中7人は転職を考えている、という調査結果も出ている。
会社を移ろうと思う理由としては「現在受け取っている賃金に満足していないから」という回答が最も多くなっている。
これは、韓国経営者総協会(経総)が、韓国国内の20代から40代の正規雇用労働者1500人を対象に調査した、「勤労者意識トレンド」によって示されたものであり、同調査によると、回答者の69・5%が、「現在転職を考慮している」と答え、転職しようか悩んでいる理由(複数回答)としては、「金銭的報賞に対する不満」(61・5%)が最も多く挙げられ、続いて「過度の業務量」(32・7%)、「自分の期待よりも低い社内評価」(27・4%)、「会社の実績不振など未来に対する不安」(26・6%)、「個人的成長」(25・7%)という順となっている。調査対象者に、転職が持つ意味を尋ねると、「年俸引き上げの手段」という回答が49・5%で最も多く、次いで、「個人的成長の機会」(31・8%)、「力量検証の手段」(12・3%)という回答が続いている。
経総は、「生涯の職場という概念が次第に薄れつつある状況である。企業は優秀な人材の離脱を防ぐため公正な評価・報賞システムを整備する必要がある」と総括している。
韓国は、国家や組織に対するアイデンティティーよりも個人の視点からのメリット・デメリットが重要視される社会に更に転換しているようである。
韓国が中進国の罠に嵌らず、きちんと発展している国家として真に評価された国であれば、富裕層の海外移転は高まらないのではないか。また、国民が更なる経済成長の期待を持っているのであれば、勤労者意識もより前向きな回答が見られるのではないだろうか。
韓国では、その社会の内面からも問題が沸き上がりつつあるものとも見られ、今後の動向をフォローしていきたい。
(愛知淑徳大学ビジネス学部ビジネス研究科教授 真田幸光)