北韓が韓国との敵対姿勢を強めている。これまで同じ民族として「統一」「和解」の対象としていた韓国に対して、「同族関係ではない」と宣言し、敵対国とまで位置付けるようになった。
昨年12月、金正恩総書記は朝鮮労働党中央委員会総会で、「南北関係はこれ以上同族関係、同質関係ではない。敵対的な両国関係、戦争中にある両交戦国関係に固着された」(2023年12月31日付朝鮮中央通信)と言及。
翌年1月15日の国会に相当する最高人民会議の施政方針演説では、「我が国の民族史から『統一』『和解』『同族』という概念自体を完全に除去」と、長年の南北統一を否定し、「憲法を改正し、第一の敵対国、不変の主敵と確実にみなす教育強化を明記するのが正しい」と敵意を露わにしている。
それとともに、3代目である金正恩総書記自身の権威付け強化も進んでいる。北韓で最も重要な記念日とされる4月15日の故金日成主席の生誕を祝う「太陽節」に、今年は異変があった。同主席の神格化を意味する名称だが、朝鮮中央通信などは、「4・15」や「4月の名節」と言い換えて報じていた。
具体的な行動にも出ている。1月には統一遺訓と南北対話を象徴する平壌の祖国統一3大憲章記念塔を撤去。同塔近くの金日成の祖国統一命題碑も同時に廃棄したと推定されている。
影響は朝総連にも及び、長年掲げてきた「祖国の自主的平和統一」の綱領も揺らぎ始めている。
朝総連の機関紙「朝鮮新報」5月10日号は、朝総連傘下の韓半島統一運動組織である在日朝鮮人平和統一協会(平統協)が4月26日、都内で幹事会を開き解散を決めたと報じている。
また朝総連は「対韓政策路線転換方針の執行について」と題する内部文書を発布。朝鮮学校に「自主統一」「一つの民族(ハンギョレ)」などの表現を使った指導を禁じる指示が出された。
韓国との敵対姿勢を強める一方で、北韓は朝鮮大学校の学生約140人に対し、8月末以降に訪朝の特別許可を出している。韓国籍、日本国籍の学生も受け入れる。
こういったなか注目すべきは北韓と日本の関係だ。 キューバの北韓大使館元参事官で昨年11月に亡命したリ・イルギュ氏がロイター通信のインタビュー(1日)で、日本人の拉致問題を巡り、北韓は立場を変える可能性があると指摘した。金正恩は、日本からの経済援助の見返りに解決済みとする従来の立場を変えるとの見方を示した。
本紙は別ルートから北韓、日本政府関係者が水面下で接触しているとの情報を入手。すでに北韓側からは船舶での航路開設など、具体的な要求が出ているという。はやければ8月後半から9月上旬に両国間で首脳会談などが実現する可能性もある。
長年にわたり膠着状態にあった日本・北韓関係が急展開するかもしれない。