次期大統領選挙に暗雲

保守弱体化へ3つの悪材料
日付: 2024年08月15日 04時19分

 与党・国民の力と尹錫悦政権は保守の票を獲得し延命しているが、保守の意向とは異なる動きを見せている。7月の党代表を選ぶ全党大会については「見苦しい」の一言に尽きるものだった。4月の総選挙でも「親尹」「反尹」を連呼したのみで結局、大敗を喫した。2年前、共に民主党と李在明候補を蹴り、現大統領を選んだ国民の期待に背を向けているとすれば、2026年の地方選挙と27年の大統領選挙では敗北だけが待っている結果になるだろう。  (ソウル=李民晧)


■「敵失」の勝利に陶酔

22年、尹錫悦政権が発足したのは、保守の力によるものだけではない。当時の大統領選挙で国民の力の尹錫悦候補は、準備不足のリーダーであることを何度も露呈し、その過程で国民の力も分裂し続けた。
それにもかかわらず国民の力が勝利したのは、相手陣営(共に民主党)の候補が李在明氏だったという点が大きい。様々な犯罪疑惑と問題を抱えている李氏は、それだけで嫌悪感を持つという有権者も多かった。さらには同じ民主党支持者の中でも、李在明に対し露骨にNOを突きつける人も少なくなかった。特に支持政党を持たない浮動層の選択は尹錫悦氏に向かうしかなく、それが票の優勢に表れた。一言で言えば、民主党と李在明を嫌う民意のおかげで、尹錫悦候補は国会議員未経験でありながらも、むしろそれを長所としてアピールすることができ、大統領に当選した。
その後、尹政権は国民の支持を受け、保守の地平を広げるはずだった。しかし、昨今の状況を見ると悲観せざるを得ない。新しい党代表を選出するビッグイベントで最大の争点となったのが大統領夫人のブランドバッグ収賄疑惑であり、それに関するテキストメッセージをめぐり党首候補間の争いが起きた。

■「嶺南党」と揶揄された総選挙

4月の総選挙では依然、国民の力の変化が容易ではないことを予感させる結果となった。当選した議員108人のうち、地域区議員は90人。このうち、嶺南地域で当選した議員は43人で48%に達する。一方、最大の激戦区である首都圏(ソウル、京畿、仁川)で当選した議員は19人(21%)に過ぎない。国民の力の党員85万人のうち、40%が嶺南地域の人々だという。
国民の力は、「嶺南党」の枠にはまってしまった格好だ。さらに、嶺南地域はイデオロギーを強調する傾向が強い。韓国政治の中心であるソウル地域でも、江南3区などの富裕層が多い地域で票を獲得した一方、その他の地域では完敗に近い屈辱を受けた。
過去のように強いカリスマ性を持ち、確固たるファンを持つ政治指導者の出現を待つこともできない。尹錫悦大統領は国民の支持を受けるリーダーとは程遠い。安定した支持率は25~30%程度に過ぎない。

■「勤労高齢者」の急増

統計的に見ると、韓国社会全体で保守がますます失速している現状を確認することができる。12年の大統領選挙では、60代以上で当時の朴槿惠(セヌリ党候補)を支持した人の割合は72・3%だったが、今年4月の総選挙において国民の力の支持率は67・4%に低下した。特に60代の支持率は62・9%にとどまった。
保守のコンクリート支持層とされる60代以上の高齢者の中で、保守に背を向ける人が増えているのだ。その背景には、加速する韓国の高齢化が挙げられる。代表的な目安が「勤労高齢者」の増加だ。04年に53%だった60~64歳の雇用率は24年、64%に急増した。経済的困難により働く高齢者が増え、各種の福祉事業や政策に熱心な民主党に有利な環境が整ったのだ。
韓国の高齢者における貧困率は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最も高い。65歳以上の高齢者の10人に4人が生計に不安を覚えるほど困窮した生活を送っている。国民年金制度も他の先進各国より遅い1988年に導入するなど、高齢者福祉システムが劣悪だ。また、他国に比べて子どもの教育費や結婚費用の負担が大きい傾向にあるため、貧しい高齢者の割合もおのずと高くなる。仕事をせざるを得ない「勤労老人」には、国民の力よりも民主党の政策が支持される可能性が高い。なぜなら、民主党は民生支援金などといったあからさまなバラマキ政策を、ポピュリズム批判を覚悟して推し進めるからだ。最近も彼らは国民1人当たり25万ウォンの支援を「民生支援金」という名目のもと、国会で単独処理した。
保守政治勢力が萎縮した原因としては、プロテスタントに代表されるキリスト教信徒数の減少と、韓国人の脱宗教化が挙げられる。牧会データ研究所が実施した「2023韓国人の宗教現況」調査によると、宗教を持っていると答えた回答者の割合は、55・1%だった12年から23年には37・1%へ、18%減少した。プロテスタントの信者は12年の22・5%から23年には16・6%にまで減少した。特に30代(21↓11%)と40代(26↓14%)で信者の減少幅が大きかった。プロテスタント信者の大半は保守支持者だが、その数が減っているということは、それだけ保守が票を失っていることを意味する。
かつてのように、保守を強力に支持する有権者の数は減少している。かといって、李在明審判論のみで選挙の勝利を期待することもできない。そうなると、国民の力の解体こそが保守復活への近道となるかもしれない。国民の力はあたかも「高収入の会社員の職場」のように見え、大統領は指導者として準備不足である様子をたびたび露呈していた。「尹錫悦大統領の国政哲学は何なのか」との疑問まで噴出している始末だ。「妻以外すべてを変えろ(サムスン電子・李健煕前会長)」という言葉のように、生まれ変わる覚悟を持って変革に舵を切らない限り、保守の立ち位置はさらに狭まるだろう。26年の全国同時地方選挙(地方選)、27年の大統領選挙も遠くない未来だ。

4月22日、ソウル汝矣島の国会で開かれた国民の力国会議員当選者総会。総選挙での敗北について、当選者らが有権者に向けて謝罪している


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