万葉集は最後の作品の4516番歌のため「無価之宝(値のつけられないほどの宝)」になる。万葉集が新しく全篇解読されれば、この作品が万葉集の価値を引き上げるはずだ。
万葉集には約4500首の歌が収められている。西暦399年から759年の間、天皇から数多くの平民までが郷歌を詠んだ。誰かがそれらの歌の中から重要な意味があると思われるものを選んで万葉集と名付けた。万葉集に収められた歌々は、すべてが青い海の真珠だと思う。
万葉集は全20巻で構成されている。私はそのうち1巻(84首)と2巻(150首)に収録された作品を「郷歌製作法」をもって解いていった。1首1首、胸が締め付けられ、私を歓喜や悲嘆に暮れるようにした。
私は万葉の世界を旅しながら、額田王、大来皇女、斉明天皇、中大兄皇子などなど、その夜空を彩った主人公たちに会い、彼らの本当の話を聞くことができた。
1、2巻の解読を終えた頃、神々になった万葉の星々が私のもとを立ち去った。彼らは私に手を振りながら歴史の深淵へと去って行った。彼らは私に、自分たちの熱かった愛や挫折、本当の姿を後世の人々に伝えてほしいと願いながら去った。
私は、彼らと万葉集の中で長い年月を共にすることができたと思う。
万葉集の編纂は一個人が行ったものでないと思う。少なくとも元明天皇と桓武天皇の皇室が深く介入したはずだ。そして元明天皇が意図した万葉集と、桓武天皇が謀った万葉集は違った。
元明天皇の万葉集は、天武天皇と持統天皇の子孫が万代にわたって皇位を継ぐことを祈願する体制だった。
ところが、現在の万葉集は、桓武天皇の万葉と考えられる。
雄略天皇に起源を置き、天智と桓武へと続く皇統が万代に続くよう万葉の神様に祈るのが、桓武天皇の万葉集の体制と私は思う。
つまり、元明・桓武の両天皇が関与した万葉集には多くの作品が追加されていった。万葉が歩んだ長い長い旅程は、大伴家持の作品をもって締めくくられた。大伴家持の作品が仕上げの歌として追加されるや、万葉集の価値が確然と変わったことを認めざるを得ない。
新年 乃 始 乃 波都波 流
能 家 布敷 流 由伎
能 伊 夜 之 家
余 其 騰
これまでこの4516番目の歌は次のように解釈されてきた。
新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事(よごと)(新しい歳の初め、この初春の今日という日に降り積もる雪のように、めでたいことがますます積み重なって欲しいものだ)
「無価の寶」(むげの宝)、万葉集4516番歌
<続く>