いま麹町から 40 髙木健一

反日種族主義~慰安婦問題
日付: 2024年07月23日 12時49分

 最近、韓国の学者による慰安婦問題についての出版物が出てきました。『反日種族主義「慰安婦問題」最終結論』(朱益鐘・文芸春秋)が題名です。主に韓国の挺隊協の運動を批判するもので、挺隊協証言録の誤りを指摘し、「植民地朝鮮で官憲による慰安婦強制連行はなかった」ことを強調するのです。
著者は、「当時は慰安婦の動員は合法的に行われた」とし、「今まで慰安婦運動グループの研究者や運動家たちが主張してきたものは、架空の作り話というしかない」とまで言うのです(上記書446頁)。

また、「日本の髙木健一など左翼の弁護士」らが、韓国の太平洋戦争犠牲者遺族と共に韓国人の元慰安婦を原告とする戦後補償を日本政府に要求する裁判を準備し、その年末(1991年)、金学順を日本に招いて東京地方裁判所に訴訟を起こし、大々的に記者会見を開いて日本の世論に大きな衝撃を与えたと、私に関する記述があります。そこまで言われれば、私も黙ってはいられません。
まず、この本はその後の日本での裁判のことや遺族会の運動には一切触れず、検討もなされていないのは、腑に落ちません。慰安婦の強制連行の有無や動員の合法性は、挺隊協の証言録だけで判断すべきものではないと考えます。

日本の裁判所の法廷で私たちは、被告の日本政府と主張を戦わせ、原告らの陳述書で詳細を述べた上、証言台に立って、被告である日本国による反対尋問を受けて真実性を確認する作業をしたのです。
その上で、裁判官が判決に至ったことが重要なのです。結果、上記遺族会の裁判で東京高等裁判所は平成15年(2003年)7月22日、「控訴人盧清子及び控訴人沈美子は、日本軍ないし日本国警察官によって強制連行されたものと言わざるを得ない」と判断がなされたのです。

つまり、この判決文だけでも上記書にある「慰安婦強制連行はなかった」とか「動員は合法的」でこれまでの運動家の主張は「架空の作り話」だとするのは成り立たないことが分かるのです。
しかもこの判決は、さらに問題を掘り下げます。「以上によれば、…その意思に反して雇用主」との間で「軍隊慰安婦として雇用契約を締結することを強いられ」「旧日本軍の管理を受け、劣悪な労働環境の下で」「旧日本軍人に対する強制的売春を強いられたものであると認められる」ので、日本国による不法行為が成立する可能性もあったとするのです。

しかし、判決はこれら慰安婦の損害賠償請求権も65年の日韓請求権協定に伴う措置法(法第144号)によって1965年6月22日をもって消滅したものとされたのです。
ただ、控訴人沈美子については、戦後在日であったため、措置法の適用がないとされたのですが、65年から20年間の除斥期間が経過したので、法律上権利が消滅したとされたのです。わずか7年の差で、権利がなくなったとされました。
最近(2024年7月3日)のニュースでは旧優生保護法訴訟において、不法行為から20年間で損害賠償請求権が消滅するという「除斥期間」について、これを日本政府が主張することは「信義則に反し、権利の乱用で許されない」として、被害者の損害賠償請求権は消滅していないとする最高裁の判決(上同日)を考えると、この元慰安婦にも同様の判断があるべきだと思います。

つまり、除斥期間の経過で、国が賠償責任を免れることは、「著しく正義・公平の理念に反する」とされたのです。
このように、遺族会の裁判は慰安婦問題の歴史について、見逃せない経過があるので、韓国の学習者にとっても無視するべきではないのです。


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