ヒトラー政権下で開催された1936年のベルリン五輪マラソンで、孫基禎は韓国人として初の金メダリストとなった。しかし当時は日本統治時代で、日本代表選手としての栄誉となる。
さらに、東亜日報がユニフォームの日章旗を抹消した表彰式の写真を掲載したことが大問題になり、朝鮮独立運動への波及を恐れた日本の官憲から監視されることになる。
五輪後は二度と走ることはなかったが、独立後は韓国のマラソン指導者として、多くの後進を育成する。
著者は会社員だった30代半ばのころ、ベルリン五輪で力走する孫基禎のテレビドキュメンタリーを視聴したことをきっかけに、直接会ってみたいと思い立つ。さまざまなつてをたどり、1982年に対面を果たす。その後、2002年に亡くなるまでの間、インタビュー音声、別の機会に聞いた逸話、交わした手紙やはがき、さらに長男の孫正寅氏から贈られた多くの資料を基に本書をまとめ上げた。
孫基禎の人生について「過去・現在・未来の日韓関係のみならず、世界の国々をつなぐ五輪やスポーツのあり方を考えるうえで多くの示唆を与えてくれるはずだ」としている。
はるかぜ書房刊
定価=1540円(税込)