宵の口の都心の酒場には三々五々と人々が集まってくる。夏を迎えると夕暮れ時や夜空の下での一杯が心地よく感じられるが、ここでは両都市の酒場の雰囲気をお伝えしたい。
乙支路ノガリ横丁
ソウルの中心で地下鉄3路線が交わる鍾路3街駅前の通りでは夕方になると、屋台の明かりが灯り始める。通りの飲食店も店先にテーブルを出し、辺りは路上ビアホールと化す。夏の屋台はワゴンにライトを吊るし、冬はテントをかぶせて帆帳馬車の屋台となる。料理は1皿2万ウォン前後で、チヂミやホルモン炒め、テナガダコやホヤの刺身などが提供され、ソジュや瓶ビール、マッコリとともに味わう。屋台は決して安くはないが、その雰囲気が魅力だ。外国から訪れた観光客としては韓国ドラマで見た光景がそこに広がる。
乙支路3街駅近くにはノガリ横丁として有名な路地がある。こちらも店先にテーブルが並べられ、そこで飲み食いを楽しむ。ノガリとは干しスケソウダラの幼魚で、火で炙ったものを酒の肴とする。ここでは「500(オーベク)」と称される500ミリリットルジョッキに入った生ビールを飲み干す。鍾路や乙支路の酒場は、かつては仕事帰りのサラリーマンが目立っていたが、レトロブームもあってか今は学生など若い世代が多く感じる。
外の風に当たりながら、お酒が楽しめる場所としては、東京では上野アメ横付近にも似ている。山手線のガード下に焼き鳥やもつ焼きなどの店が集まり、香ばしい煙に誘われるように人々が寄ってくる。
上野アメ横ガード下
テーブルにはジョッキに入った生ビールや酎ハイが、おつまみ1品1品ごとの小皿とともに並ぶ。客層は20代も見られるが、昨今の鍾路や乙支路の店よりは確実に年齢層が高い。また山手線沿線では有楽町駅ガード下の飲み屋街があり、こちらもレトロな居酒屋が多い。2020年秋には新橋駅にかけての赤レンガのガード下の空間に日比谷OKUROJIが開業し、飲食店に限らず、大人のレトロが感じられる場所となっている。東京では浅草にあるホッピー通りも、牛スジやモツ煮込みが名物の飲み屋街だが、軒先にテーブルが並べられ、活気に満ちている。また、このあたりは在日コリアンの店が多い。そして赤羽駅東口の赤羽一番街にも居酒屋が多く、飲兵衛の聖地とも言われている。
よりお洒落に飲食が楽しめるのは、屋上にテラスがあるルーフトップバーだ。特にソウル・南山の南麓の厚岩洞に多く、夕暮れ時には家やビルの窓に明かりが灯る街の姿を美しく望む。ドラマ『梨泰院クラス』のタンバム2号店として登場した店と、同様の店が数軒並び、洋食やハンバーガー、デザート類、各種ビールやワイン、近年韓国でも人気のハイボールなどが味わえる。
東京にもこのような屋上ビアガーデンが存在し、BBQができるところもあるが、洒落たルーフトップバーとなれば、ホテル上階の高級店が多い印象だ。また東京では近年「横丁」と称する飲食街が増えた。横丁とはいえ、フードコートのように集まる居酒屋街で、一説では2008年開業の恵比寿横丁が先駆けだという。虎ノ門横丁は虎ノ門ヒルズの3階に東京の店が集まり、渋谷横丁はミヤシタパーク内に日本各地のご当地食の店が集結し、そこには韓国食市もある。品川駅高輪口近くの品川横丁も建物の中にあり、これらは20年に相次いで開業した。韓国に特化した横丁としては21年冬にオープンした新大久保韓国横丁がある。また23年春には新宿の東急歌舞伎町タワーで、祭りをテーマにした新宿カブキhall~歌舞伎横丁も開業して日々にぎわう。
韓国では主に同メニューの店が路地に集まるモクチャコルモク(食べよう横丁)がかねてより居酒屋街を兼ねているが、店自慢の料理を味わいながら、お酒を飲むのも楽しい。