韓日スタートアップ合戦 ~グローバル成長を目指す〝競争と協調〟のスクランブル~ <篠崎 晃>

第2回 クロスボーダーの起業家たち
日付: 2024年06月25日 11時53分


 クルマの安全を守る
非接触安全センサーで起業


ユニコーン(評価額10億ドル以上の非上場企業)を生み出す韓国と日本のグローバル競争が白熱化している。こうした中で、グーグル出身の米国籍AI研究者らが2023年7月に東京で創業したスタートアップのSakanaAI(サカナAI)が24年6月に約200億円の資金調達に成功し、最速で企業価値11億ドルを超える日本発のユニコーンの誕生として話題になっている。
これに対して、韓国では東芝出身の光ファイバー・光半導体研究者が忠清南道天安市で起業した韓日合弁企業のVITonetAP(ヴィトネットAP)がKOSDAQ上場を間近に控え、主力製品の自動車用非接触安全センサー「スマートウィンドウ」の量産化に向けた動きが加速している。

 日本発の光通信技術で実用化

ヴィトネットAPは日本の株式会社オートテック(東京都千代田区)が韓国政府のテクノパーク建設計画に応募し、1997年1月に忠南テクノタウン天安バレーに工場進出したベンチャー企業が前身。オートテック代表取締役の長峰純一氏によると「当時の金大中政権下で始まった天安市のベンチャー工業団地(テクノパーク天安)には、約1300社の応募申請から80社が入居できる狭き門でしたが、光通信技術の生みの親である東北大学の西澤潤一先生(故人)の指導を受けて進めてきた光ファイバー技術を応用した自動車用非接触安全センサーの開発、実用化計画が現地の行政当局に評価され、韓国での起業が実現した」という。

 現地の伴走支援が成功のカギ

ヴィトネットAPは現在、天安市の忠南テクノタウン内に本社及び第1工場(光ファイバー加工組立と光半導体検査)と第2工場(光半導体製造工場)及び付属研究所を持ち、株主には韓国中小企業銀行、国民創業投資、韓国外換銀行などが名を連ねる。主力製品の自動車用非接触安全センサーは、自動車の窓に取り付け、車窓の開閉を安全制御する部品ユニットで、米国GM系部品ユニット製造会社が「スマートウィンドウ」として開発してきた。GMの撤退後はヴィトネットAPが世界で唯一無二のメーカーとして、韓国自動車研究院や現代自動車系列の部品会社の支援を受け、実用化に向けた研究開発に取り組んできた。その結果、量産化の目途が付き、KOSDAQ上場が視野に入っている。
日本で米国人を中心に起業したサカナAI、韓国で日本人が起業したヴィトネットAP。この二つのクロスボーダー起業では、進出先の行政機関や産業界の伴走支援がKSF(キーサクセス・ファクター)になっており、ベンチマークの指標として注目される。

 

工場の全景

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2工場と付属研究所


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