3代長期世襲体制の限界を迎える北韓

高永チョル 韓半島モニタリング
日付: 2024年06月18日 12時46分

 「絶対権力は絶対腐敗し、絶対崩壊する」のが歴史の先例であり、権力の自然な生理でもある。
因みに、金正恩は昨年12月28日の労働党中央委員会で、「南北関係はもはや同族関係ではなく、敵対的な2国間関係、戦争中の二つの交戦国関係に完全に固定された」「有事の際、核武力を含むすべての物理的手段と力量を動員し、韓国の全領土を平定するための大事変準備に拍車をかけなければならない」と対南脅迫、恐喝をした。
また5月23日、北韓は9・19南北軍事合意により中止したすべての軍事的措置を直ちに回復すると明らかにし、事実上、南北軍事合意破棄を宣言した。
2018年9月19日に締結された南北軍事合意書は、双方が軍事的緊張と衝突の根源となる一切の敵対行為を全面中止するため合意した南北平和共存のための協約である。さらに北韓は最近、臭い汚物風船を韓国に大量散布し、常識外れの醜態を見せている。
金正恩がこのように常識に反する醜態を見せる背景には、慢性的な経済不況と韓流ブームによる動揺階層住民の民心離れを防止し、国内結束を固めるための布石とみえる。
すなわち、金正恩長期世襲権力体制が限界に直面し、脱出口が見えない厳しい状態を抜け出すための出口戦略と見られる。
金正恩は11年12月末、就任後まもなく、人民武力部長を粛清し、ナンバー2で叔父の張成沢を残忍に処刑した。その後、異腹の兄、金正男をクアラルンプール空港で毒殺した。
さらに、軍部と党幹部ら約300人を粛清した。
金正恩の祖父・金日成と父親・金正日時代の粛清と言えば殆ど政治犯収容所収監や左遷、人事異動だったので「粛正」と言われる。しかし、金正恩時代の粛正は銃殺という残忍な「粛清」が目立っている。
その理由は親子3代まで続く長期世襲権力体制に対する抵抗心理を抱える住民に、恐怖心を植え付ける狙いだろう。3代まで世襲する長期独裁体制に対する抵抗心理を抑えるためには残忍な粛清が必要不可欠だろう。とは言え、やり過ぎた恐怖政治の後遺症はもはや限界を迎えている。
北韓の住民は党幹部と軍部を中心とした特権階層と動揺階層、そして長期独裁体制に対する不平不満を抱える敵対階層という3種類に成分が分類されている。北韓は5カ所の政治犯収容所で15万人を強制収容中である。さらに、韓国定着の脱北者は3万人を超えている。
金正恩は21年4月8日、労働党細胞書記大会で「私は党中央委員会から全党の細胞書記たちがますます強固な『苦難の行軍』をすることを決心した」と宣言した。北韓は1990年代に、数百万人が餓死する「苦難の行軍」時期に全国民が食糧難で苦しんだ前例がある。国連食糧農業機関(FAO)は報告書で、北韓を外部の食糧支援が必要な45カ国の一つに指定した。さらに、北韓は2007年から15年連続、食糧難が続いており、人口の半分が慢性的な栄養失調を余儀なくされていると報告書は指摘している。
金正恩体制にとって一番怖いのは全国的な住民の反体制蜂起である。現在、北韓は携帯普及率が700万台を超えている。住民の大部分が隠れて韓流ドラマを視聴しており、昼は共和国万歳を唱えながら、夜は韓国に憧れている。こういう動きは労働党と軍幹部にも拡散し、面従腹背の雰囲気が潜在されている。因みに、金正恩は常に住民の思想改革を呼び掛けている。しかし、韓流ブームを通じて韓国の豊かさと自由世界を味わった住民の思想改造は逆戻りできない。こういう厳しい環境で金正恩体制が生き延びる選択肢は南北緊張局面を造成しなければならない。外に敵を作って国内結束を図るのが長期独裁政権の特徴であることを再認識する。これから金正恩は3代長期独裁体制を維持するために更なる南北緊張と危機雰囲気を造成しなければならない厳しい状況に置かれていることが分かる。


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