5月20日、第16代台湾総統に就任した賴〓德氏は就任のあいさつで「中国は台湾武力侵攻をあきらめておらず、台湾を飲み込もうとする試みは消えないだろう」と述べた。さらに、両岸関係は現状維持を望み、蔡英文前総統の親米・反中路線を継承する考えを明確にした。
最近、中国軍は台湾周辺に六つの訓練区域を設定して実射撃訓練を行い、台湾総統就任4日後には台湾包囲軍事訓練を実施した。中国の台湾侵攻の可能性について専門家の間では賛否の見解が交錯している。
米CIA、国務省、国家情報局(DNI)は習近平主席がロシアのウクライナ侵攻を模倣し、2027年~30年の間に台湾に侵攻する可能性が高いと展望している。27年は中国軍創建100周年であり、習主席の総書記4連任が確定する年だ。しかし、中国の台湾武力侵攻は破れない厚い壁に直面している。
最近、セス・モルトン米下院議員が「中国が台湾に侵攻する際には、米国がTSMCを爆破することを中国側に警告すべき」と主張した。先端半導体が人工知能(AI)と共に軍事的に米・中覇権のゲームチェンジャーになるためだ。
米国は食料と石油資源が自給自足出来るが、中国は食料と資源をほとんど輸入に依存している。世界のIT・半導体産業は米国が70%のシェアを持っており、残り30%は日本、韓国、台湾が占めている。
中国で伸びる電気車も今後は欧米が得意の水素燃料車、合成燃料車という脱炭素車が世界自動車市場のシェアを急拡大する見通しだ。
米中は核保有国であり相互確証破壊(MAD)戦力を持っているから敢えて戦争に踏み切れない。即ち、核保有国同士は先制攻撃が出来ない「恐怖の均衡」が戦争発生を抑止している。従って、キッシンジャー博士は”核保有は仮想敵国と不可侵条約を結ぶ効果をもたらす”と指摘した。
現代戦の特徴として全面的な攻撃はなくなり、サイバー攻撃・情報心理戦、ドローン・無人機やミサイル打撃による非対称戦と局地戦に変わりつつある。
ウクライナに侵攻したロシア軍は首都キーウを3日で占領すると言われたが、1カ月以上、苦戦を繰り返した末、首都周辺から撤退を余儀なくされた。しかも、中国が目論む台湾侵攻は陸路ではなく海を渡るという至難のハードルに直面しているため、成功させるのはなおさら難しい。
中東の小国であるイスラエルはイスラム諸国に囲まれているが、相次ぐ戦争で負けたことがない。イスラエルは大国に敢えて喰われない中東のハリネズミと言われるが、台湾はアジアのハリネズミ的な存在である。
特に、台湾は有事に備えて中国内陸の三峡ダムを破壊できる長距離巡航ミサイルを配備している。三峡ダムが破壊された場合、中国内陸部が水没する大惨事を招き、致命的なダメージを受けざるを得ない。従って、軍事大国である中国が小国である台湾に全面攻撃して占領するという意見は説得力の欠けた時代遅れの見方であろう。
米国はベトナム戦争で10年間、頑張ったがゲリラ戦に巻き込まれ結局1975年、撤退せざるを得なかった。
その後、79年に中国が統一ベトナムに侵攻したが大敗し撤退した前例がある。旧ソ連はアフガニスタンに侵攻して10年間、アフガン武装集団と戦ったが89年、負けたかのように撤退し、旧ソ連は崩壊した。
1904年の日露戦争当時、欧米では「日本は東洋の貧しい片田舎国で小さな島国だから軍事大国ロシアに必ず負けるだろう」と言われた。しかし、日本は黄海海戦や旅順攻略で勝利し、バルチック艦隊を迎え撃つ日本海海戦でも大勝利を収めた。
台湾は中国軍の上陸可能な海岸12カ所を要塞化している。万が一、中国が台湾に武力侵攻したら、予想外の落し穴に陥るはずだ。
結局、中国は危険過ぎる台湾侵攻の冒険に踏み切るよりは親中政権の樹立、情報工作や懐柔、脅迫など、非軍事的な手段に力を注ぐものとみられる。