「北」が望むのは平和ではなく「乱世」だ

デイリーNK 高英起の高談闊歩
日付: 2024年05月21日 12時37分

 北韓がウクライナへ侵攻しているロシアへの武器供与について否定した。金正恩総書記の実の妹である金与正氏は17日に談話を発表し、「『朝露兵器取引説』は、いかなる自余の評価や解釈を付けるだけの値打ちもない最も荒唐無稽な憶説」と否定した。
一方、「われわれが公開したロケット砲とミサイルなどの戦術兵器は、たった一つの使命のためにつくられたものである。それは、ソウルが余計な工夫を凝らせないようにするのに使われるということを隠さない」としながら、北韓の武力のターゲットは韓国であることを明言した。
談話当日、金正恩氏は東海上でおこなわれた「自律誘導航法システムを導入した戦術弾道ミサイル」の試射を参観し、「自律誘導航法システムの独自的開発と成功裏の導入結果に内包している軍事戦略的価値」に大満足したという。
金正恩、与正兄妹がここまで強気に出るのは中国とロシアの後ろ盾を再確認したことがあると見られる。金正恩氏は昨年7月にロシアのセルゲイ・ショイグ国防相を、北韓で開催された武器展示会に招いた。
9月にはボストーチヌイ宇宙発射場でプーチン大統領と会談し、「共同戦線で両国間の戦略・戦術的協同」を緊密にし支持、連帯していくと意思確認をしていた。
さらに、談話と弾道ミサイル試射の前日である16日、中ロ首脳会談を行った習近平国家主席とプーチン大統領は共同声明で、米国と同盟国による北韓への「軍事的脅迫」と対決姿勢をやめるよう求め、朝鮮半島問題は外交的手段による正常化が必要だと指摘した。
声明では北韓への制裁を解除して軍事的緊張を緩和し、周辺国も加わった同半島の安全保障に関する対話再開の条件づくりをするよう呼びかけた。
仮にロ北間の武器取引がなかったとしても、ロシアと中国の支持を得た上で北韓はミサイルをはじめとする兵器開発を加速化しているという構図になっているのは疑いようがない。
中ロの支持を踏まえて、最近の北韓が兵器開発のターゲットが大韓民国であることを明言しているのは実に不気味である。
確かに金正恩氏は昨年末以降、韓国との平和的な南北統一を否定したうえで、「戦争になれば平定する」としている。仮に南北統一が実現すれば、どのような形であれ(例え限定的だとしても)北韓は民主主義の波にさらされるだろう。
それは北韓にとって建国以来初めて経験する「嵐」であり、金正恩氏からすれば「悪夢」以外の何者でもない。
金正恩氏は民主主義による平和で安定した情勢よりは、「乱世」を望んでいるようだ。
北東アジアでは、国力の最も小さい北韓こそ「乱世」に弱いはずなのだが、民主主義を否定しながら軍国主義国家への道を進もうとする独裁者にとってそんなことは二の次なのである。


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