昨年の春先から初秋にかけてのさまざまな気候異常が、農作物の価格高騰に直結している点に留意しなければならない。今日を生きる私たちはともすれば見失いがちだ。韓国でリンゴが史上最高値になっている現状について、リンゴ農家マ・ヨンウンさんの講演と”持続可能”な韓日協力の在り方と可能性を探った。
未来を見据えた行動必要
韓国の産業通商資源部と日本の経済産業省が推進しているGX(グリーン・トランスフォーメーション)や、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の取り組みでは、CO2排出を減らす温暖化対策ならびに”持続可能”を推奨する。具体的な期間を設定しての、産官民の連携を積極的に呼び掛ける動きが注目を集めている。
韓国草の根塾オンラインセミナー(田中博代表)で18日、慶尚南道咸陽郡でリンゴ農園を14年間営んでいる「自然アップル農場」のマ・ヨンウン代表が「気候危機と韓国のリンゴ農業」と題して講演。昨年の春から夏にかけての異常な暑さ・冷害・梅雨・台風などのさまざまな自然災害に直面し、いかにリンゴ栽培が韓国で困難になってきているかという現状について発表した。
■リンゴ価格高騰の原因
毎年4月末ごろに花を咲かせていたというリンゴが昨年は温暖化による影響で4月上旬に開花した。マ代表の農園は経営を開始した2010年からすでに4月中旬には開花していたというが、それがさらに早まり、栽培用のテキストはこの約10年間で大幅な改定が迫られているとしている。
不安定な春の気候変動が災いし、リンゴの花が開花して間もなく降りた霜の影響で冷害にさらされた。つぼみをカットしてみると、花の中の実になる部分が黒く変色していたという。
リンゴに限らず果物全般の価格高騰は、早期から予測できていたものだった。
季節外れの温かさの続いた3月から急激に冷え込んだ4月、また5月から長期にわたり豪雨をもたらした梅雨、6月に35度以上を記録した猛暑など、いくつも重なった気候異常がリンゴの健全な成熟に適した環境を壊し害虫が発生した。
マ代表によると、リンゴの成熟へのプロセスは、葉が光合成を行い、発生したブドウ糖が実に働き、赤みに変わっていくという。15~20度の涼しい気候が長く続きその美味しさが際立つというが、昨年の気象異常がその過程を奪った。農産物の価格高騰の原因となっている気候変動に対し、他者に責任を押し付けるのではなく一人ひとりが考え行動していかなければならない。
■「持続可能」とは何か
より重要なのは今年の動きだ。すでに4月下旬時点で平年の気温を大きく上回っているという。
マ代表は講演の最後に、「気候危機に向けて出来る行動を、日本の皆さんとも一緒に考えたい」と話した。マ代表の分析によると2090年の韓国では、江原特別自治道の山間部のごく一部でのみリンゴの栽培が可能になるとしている。
果物や野菜を含めた、農業を取り巻く環境の厳しさに思いを巡らせ、現場に立つ人たちの抱える悩みや課題を共有するところから、よりよい社会の構築を考えていくべきだろう。
有機野菜を用いた地産地消の給食制度を全国的に導入している韓国の取り組みについて、田中代表による講演発表が先月に行われたのも記憶に新しい。
オンラインで韓日農家をつなぐという取り組みそれ自体が、GX・SX推進に向けた民間企業の優れたモデルとして評価できる。
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紅瓶・呉貞子さんの描く有機果実