10日、韓国で行われた総選挙で、与党「国民の力」が惨敗した。今回の選挙では過去に見られたような慰安婦・徴用工問題などの対日政策が大きな争点となることはなかった。他方、少子高齢化や格差など経済に関連する問題がクローズアップされた。与党が敗北したことにより、今後の尹政権の経済政策に与える影響について探ってみた。
選挙のたびに反日を掲げ厳しい対日政策を主張してきた最大野党「共に民主党」の李在明代表も、今回の選挙戦では対日政策に重点を置かなかった。福島処理水の問題などには触れることもあったが、「物価も金利も家賃も高く、生活がとても苦しい状況にある。尹政権で経済が崩壊した結果だ」といった訴えが中心だった。世論の関心は外交よりも生活に直結した課題に向いていた。
李代表の言葉通り、現在の韓国の経済状況は決して良いとは言えない。
昨年の経済成長率は1・4%にとどまった。コロナ禍が始まった2020年から経済成長率は停滞したが、昨年は25年ぶりに日本を下回った。
金利高も継続したままだ。韓国銀行は選挙後の12日、政策金利を3・50%に据え置くことを決めた。10会合連続の据え置きとなった。韓国は債務問題が大きな課題となっており、特に金利高は家計負債の返済を圧迫する。
昨年末基準の家計信用残額は1886兆ウォンで、22年末に比べ18兆8000億ウォン増えた。02年に統計作成が始まって以来、最大を更新している。金利を下げられないのはインフレが抑制できていないためだが、3月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で3・1%上昇、農作物価格が20・5%、リンゴやナシの価格は88%それぞれ上がった。
だが、経済の不振は韓国だけの問題ではない。ロシア・ウクライナ戦争の影響で世界経済は停滞。原材料価格の高騰で欧米でも激しいインフレが生じている。それを抑制するために米国が高金利政策を維持していることから、韓国も金利を下げられないという事情がある。さらに中東情勢が悪化し、世界経済の先行きが不透明な状況だ。
家計負債の問題は、むしろ文在寅政権下での不動産政策の失敗によるところが大きい。不動産投資が過熱し価格も上昇、個人負債も拡大した。
今回の選挙の結果を受け、韓国株式市場は下落した。総合株価指数(KOSPI)は前日比39・76ポイント(1・46%)安の2665・40で始まった。その後は同1・6%近く下げ、取引時間中として約3週間ぶりの安値を付ける場面があった。ウォンも売りが目立った。アジア時間11日未明の外国為替市場でウォンは対ドルで一時1ドル=1365ウォン台前半と、約1年5カ月ぶりの安値を付けた。
世界の勢力図が変化し、外交関係も複雑化していくなかで、尹政権が進めてきた経済政策は評価すべき点も多い。脱中国を推進し、自由民主主義という共通の価値観を有する国との経済関係を強化してきた。
さらに中東、ASEAN地域に対し、官民一体となった関係強化を進め、一定の成果を出してきた。
特に韓日の経済関係は急速に改善した。文在寅政権下で悪化した韓日関係だが、日本は半導体関連3品目の韓国への輸出に関する厳格化を見直し、韓国は日本の輸出管理措置に関するWTO紛争解決手続きの申し立てを取り下げることで合意。23年7月に輸出管理上のカテゴリーについて韓国を「グループA」に再指定した。
財政に関しても、文政権下で膨らんだ財政支出を緊縮し、負債が拡大しないための政策を推進した。
尹政権はこれまでの経済政策を継続していくと思われるが、政権与党と国会多数派のねじれ状態が続くことで、政府が進める経済政策・市場改革が停滞する懸念も大きい。