許されぬ脱北支援カリスマ牧師の性加害

デイリーNK 高英起の高談闊歩
日付: 2024年03月19日 13時14分

 脱北を支援した人物が、自ら助けた脱北者に性加害を加えるという断罪すべき事件が起きた。
韓国ソウルのトゥリハナ宣教会のチョン・ギウォン牧師は、1000人もの脱北の手助けを命がけで行ってきた。米CNNは、そんな彼を1200人ものユダヤ人をナチスから守り抜いたオスカー・シンドラーにたとえ、「アジアのシンドラー」と呼んで称賛した。チョン牧師はソウル市の南部、冠岳区で脱北者の子どもたちのためのフリースクール「トゥリハナ」を運営していた。
しかし、フリースクールの寮に住んでいた10代の脱北少女たちに十数年にわたり性暴力を加えていたというのだ。犯行は2006年から続き、少なくとも11人が被害に遭っていたが、最年少はなんと13歳の少女だった。
実は、筆者は02年にチョン牧師と会ったことがある。当時所属していたNGO組織(RENK)が北韓で生まれ育った兄妹の脱北を成功させた。チョン牧師は、脱北者支援を始めたばかりらしく、アドバイスを欲しいとのことで上野のマクドナルドで深夜、コーヒーだけを飲みながら密談した。筆者は既に脱北支援の現場から離れていたが、チョン氏は明らかに資金もなく、手弁当で脱北支援をしていたことが言動や身なりから窺えた。その後、チョン氏は多くの脱北支援を成功させ、カリスマ的存在となったようだ。
そしてチョン牧師は、脱北者コミュニティのカリスマ的存在という地位を利用し、時には「米国に留学させてやる」との甘言を、時には「今までの恩を仇で返すのか」との脅迫を行い、被害者の口封じを行っていた。彼女たちは部屋やトイレに隠れて鍵をかけ、チョン牧師が通り過ぎるのを待つしかなかったという。
フリースクールの教師も見て見ぬふりをしていたわけではないが、牧師の存在があまりにも大きく、とても表立って問題提起できなかった。教師らは寝ずの番をして少女を守るくらいしか方法がなかったが、苦しんだ末に学校を去った教師もいる。
しかし、チョン牧師の悪行は外部のボランティアが、加害の一部始終を目撃したことから発覚。他の少女からの証言が相次いだことから、昨年9月中旬に逮捕、起訴された。
韓国メディアは原則として、犯罪容疑者の実名報道を行わないが、今回は事案の重大さを鑑みて実名報道に踏み切った。
検察は、懲役13年とGPS装着5年の刑を求刑した。ソウル地裁は2月、16年から23年までの間に5人の未成年者に対するセクシュアル・ハラスメントがあったことなどを認め、懲役5年の実刑判決と性暴力被害プログラム80時間の受講と、5年間の児童、青少年、障害者関連機関への就業制限の措置も取った。検察は判決を不服として控訴した。
一方、韓日米の27の脱北者団体が「刑が軽すぎる」として、重罰を求める嘆願書を発表した。チョン牧師が金正恩体制の人権弾圧による被害者の脱北を支援したことは間違いないが、立場を利用して被害者の人権をさらに侵害したわけである。
性加害に加えて二重の人権侵害という点でも、チョン牧師の蛮行は断罪に値する。


閉じる