先日、統一部が発表した『北韓経済と社会の実態認識報告書』では、北韓住民が3代世襲の金氏王朝に反感を抱いていることが浮き彫りになっている。脱北者6351人と1対1で面接した記録ということもあり、その信憑性は高い。これまで政府は脱北者との深層面接の結果を非公開としてきたが、尹錫悦政府は一転、この報告書を公開へと切り替えた。
(ソウル=李民晧)
回答者の55・5%は、北韓で暮らしていた当時、政治指導者としての金正恩を否定的に捉えていたことを明らかにした。金正恩への政権交代後、脱北者のうち59・6%がそのように回答した。地域別では平壌出身者が59・2%で最多となった。
2016年~20年に脱北した人のうち、「白頭血統による領導体系は維持されるべきだ」と答えた割合は29・4%にとどまった。同様の質問に対し、90年代は57・3%だったことを踏まえると明らかに激減していることがわかる。したがって、金正恩が後継者を指名し4代世襲体制を構築した場合、住民の反感はさらに高まるとものとみられる。
脱北者の23%は北韓で韓国映画・ドラマを「観た」と回答
金正恩政権は外部情報の統制を強化しているが、韓国映画やドラマは依然として水面下で流通している。
16年~20年の間に脱北者の83・3%が外国のコンテンツを視聴した経験があった。
内訳としては中国のコンテンツが71・8%で最も多く、次いで韓国映画・ドラマが23・1%を占めた。外国のコンテンツを観て北韓体制に対する否定的な認識が強くなったという回答は60・7%で、韓国ドラマが脱北を刺激する要因になっていることが数値的に明らかになった格好だ。
配給制の崩壊で労働力を搾取
配給制度も事実上崩壊していることが確認された。06年~10年に脱北した回答者のうち、「当局から食糧配給を受けたことがない」と答えた割合は63・0%だったが、16年~20年の間に脱北した回答者の同様の割合は72・2%だった。
職場で賃金と食糧配給のどちらも取得できなかったと答えた人の割合は、かつては30%台だったが、16年~20年の脱北者においては50・3%に達した。
これに対し統一部は「賃金を支払わず、熱意と忠誠心だけを強いて労働力を搾取することが常態化している」と見解を述べた。生活必需品の配給も10人中7人が「全く供給されなかった」と答えた。
統一部は一方、今回の報告書を外国語へと翻訳する作業に着手した。
また、政府は「脱北者(脱北住民)の日」の制定に向けた取り組みを進めている。尹錫悦大統領も、韓国社会において脱北者の定着を支援するべく「脱北者の日」の制定が不可欠だと明らかにしている。
『北韓経済と社会の実態認識報告書』表紙