金正恩の統一放棄で南北並立元年か(3)

デイリーNK 高英起の高談闊歩
日付: 2024年03月05日 12時15分

 金正恩総書記が「三千里」を無慈悲に吐き捨てた。韓半島全体の愛称である三千里という表現は、南北の国歌「愛国歌」で南は「むくげの花、三千里、華麗な山河」、北は「三千里、美しい祖国」と使われており、長年にわたって歌われてきた。北韓の宣伝サイト「ネナラ」にも以下のように記されていた。
「わが国は、朝鮮半島とその周辺に分布している3400余の島からなっており、昔から『三千里錦繍江山』と呼ばれてきた」と。ところが、北韓は愛国から三千里という言葉を削除して、「この世界、美しい祖国」と歌詞を変更したと日本のNHKが2月15日に報じた。
金正恩氏は昨年末から南北統一放棄を宣言し、1月15日に開かれた最高人民会議で「わが人民の政治・思想生活と精神・文化生活の領域で『三千里の錦繍江山』『8000万同胞』のように、北と南を同族にまどわす残滓的な単語を使用しない」と強調。歌詞改変は金正恩氏に従ったものであり、さもありなんというべきだ。
これに先立ち、故金正日総書記が2001年に統一へのメッセージを込めて建設した平壌の「祖国統一3大憲章記念塔」を「無様」と罵倒し破壊、実にスピーディーに南北統一の概念を消去しようしている。
まるで南北統一を連想させる言葉や文化に嫌悪感を抱いているかのようだ。ちなみに統一という言葉を使用する本紙「統一日報」は、金正恩氏からは排除すべき新聞と規定されるわけだ。金王朝存続のために韓半島の歴史をないがしろにする独裁者・金正恩から排除対象とされるのは実に名誉なことではないか。
一方、金正恩氏の統一放棄宣言で根底から存在意義が揺らぐであろう組織がある。在日本朝鮮人総聯合会(総連)だ。結成以来、「祖国統一」を錦の旗にしてきた総連内部では、金正恩氏の南北統一放棄宣言は暗黙の了解でタブーとなっており、誰も何も話さない、話せないという。
活動家たちは内心で、北韓を取り巻く状況が変化すれば、「将軍様もまた南北統一を主張しはじめる。それまでは我慢あるのみ」と思っているのかもしれないが、金正恩氏の意思は固い。数年後、総連構成員たちの「祖国統一への熱い思い」は、無残に砕け散ることになるだろう。
もちろん、総連は金正恩体制に絶対服従の組織であり、北韓本国に異議を唱えることはできない。既に弱体化しており、仮にもの申したとしても何かが大きく変わることもないだろう。
そもそも金正恩氏は大会や議長の誕生日に祝電を送っているが、総連を重視していない。金正恩氏の統一放棄宣言に幻滅して活動家や組織員が組織を離れていくのは避けられない。
ところで、総連の綱領六には、「われわれは、6・15北南共同宣言の旗じるしのもとに、在日同胞の民族的団結と北と南、海外同胞とのきずなを強化・発展させ、反統一勢力を排撃し、連邦制方式による祖国の自主的平和統一を成就するために全力をつくす」と明記されている。すなわち、朝鮮総連からすれば金正恩氏は排撃すべき反統一勢力の頂点となるわけだ。


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