韓国企業の輸出を支援する機関である大韓貿易振興公社(KOTRA)は今月に入り、報告書「日本のデジタル転換(DX)戦略と新たな進出の機会」を発表。日本の現状は、大企業と中小企業で格差が大きく、「業務効率化」の域にとどまり「新規製品・サービス」の提供に進めていないと弱点を指摘。20年前に初めて提唱されたDXの原義に立ち返り、今日的な課題にどう対応するかが問われている。
活用可能なデータ提供で連携
DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、米国のインディアナ大学教授だったエリック・ストルターマン氏が2004年に提唱した概念。
かつて「デジタル技術が現実の世界に浸透し組織や人に与える変化」と自然発生的なものとして捉えられていたのが、11年以降は「デジタル技術による環境変化を受けて組織の価値を向上する変革」とされた。社会全体での取り組みという面よりも、個々の企業が自発的に試みるべき”変革”としての意味合いがより強まった。
実態としては、単に紙媒体をPDFファイルなどに電子化するというだけでなく、データとして活用できる状態で管理・保存・運営し、第三者に容易に情報を提供できる域まで達して初めて「デジタル化(デジタライゼーション)」と呼べるのであり、DXはその奥座敷に鎮座している最終ゴールのような存在と考えられる。
■組織で変革を受け入れ
2015年以降の第4次産業革命では、それまで人間主導で行っていたデータの収集や分析を代行できる技術が開発された(人工知能〈AI〉やloTなど)。「データに基づき、サービスを高速に改善する」という時流に乗れず、衰退した企業も多かった。
変革を受け入れる上で重要なのは組織のトップ(意思決定者)による取り組みだが、組織の構成員の誰もが同じように変革に向けた共通の意識を持って初めてDXを推進できるようになる。
■「住民登録証」の弱点
KOTRAの報告書には、韓国の「住民登録証」と日本の「マイナンバーカード」を比較し、韓国の企業にビジネスチャンスがあるとしている記述がある。
1968年の発行以来、これまで韓国国民の行政手続きなどに多くの利便性を提供してきた「住民登録証」をDXの先駆けと見なすのは、実績の面からいえば正当な評価だ。
他方、QRコード一つを用いてウェブ上の手続きのみで済んでしまう事前投票が不正選挙を誘発している近年の韓国の現況などを見ると、すべて受け入れてしまうには危惧を覚える側面もある。「住民登録証」の弱点を考えるとき、現状で普及に難航している「マイナンバーカード」に進出の可能性のみを提案するというのは無理があるだろう。
やはりDXの原義に立ち返ると、デジタル技術の導入によって、価値あるデータを組織内で共有し、外部の組織とも連携をスムーズにするため「デジタル化」がまず行われる。
最終的に、蓄積されたデータを用いて情報の収集や分析を人間ではなく機械が先導していくところまできて、はじめてDXが実現ないし達成されるということになる。
もちろん韓国のスピードに日本が学ぶ面もあるだろうが、より求められているのは、どちらかで構築されたサーバーやシステムの提供ではなく、互いに制作されたツールの活用などから、双方向的な協力の在り方であることが望ましい姿とできよう。