ソウルを東京に擬える 第26回 郊外の街② 安養・所沢 吉村剛史(文・写真)

首都近接の似たものタウン 交流から発展へ
日付: 2024年02月08日 10時19分

 ソウルと東京へは周辺の都市からも人々が行き来する。今回はソウルと東京に隣接しており、電車では都心部に30分強でアクセスできる京畿道安養市と埼玉県所沢市に着目してみたい。両市はともに首都のベッドタウンとして1998年から姉妹都市となり、交流や視察を行う。
ソウル中心部から地下鉄1号線で衿川区庁駅を過ぎると、ソウルを出て安養市へと入る。石水、冠岳の2駅を経て市内の中心は安養駅だ。永登浦を出た無窮花号が次に停まる駅でもある。所沢市の中心である所沢駅は西武池袋線・新宿線が交わる”おへそ”で、特急ニューレッドアローやその次世代となる特急ラビューが停車する。駅のそばには西武鉄道の本社や西武所沢S.C.があり、西武が改めて再開発に注力している。
安養駅の東側にはアパートが立ち並ぶが、駅南西には安養一番街という安養市の中心的な繁華街がある。市内には安養大など、いくつか大学があるためか、若者たちが通りを行き交い、ナイトクラブが存在する夜遊びの場でもあるが、近年はわりと落ち着いているらしい。
所沢駅西口には所沢プロペ通り商店街があり、飲食店のほか、パチンコ店、ゲームセンターなどもある。日中は埼玉西武ライオンズの応援歌が流れているが、同時に客引きへの注意を促す音声が流れるなど、遊興街的な雰囲気も感じ取れる。
安養駅の駅ビルには以前はロッテ百貨店があったが、2019年に閉店。現在はENTER-6というトレンディなモールに生まれ変わった。安養一番街から車道を渡ると、活気にあふれた安養中央市場があり、ここには食べ物屋台も多いが、犬肉を売る露店まで見られる。
所沢駅周辺では07年に丸井が撤退、その後駅舎の改良工事が進み、駅ビルがリニューアルされ、18年にはグランエミオ所沢が開業した。20年には駅ビル開発が完了し、そこには屋外庭園やストリートピアノが設置されるなど憩いの空間が作られた。
安養市には7駅、所沢市には11駅あるが、市庁や地方法院の支院などがある行政の中心は地下鉄4号線坪村駅・ポムゲ駅周辺で、そこにはソウル五輪後に開発された坪村新都市が形成されている。所沢市では航空公園駅近くに市役所や簡裁、市民文化センターなどが集まる。その北西にある新所沢駅周辺には商業施設や映画館があったりと、所沢駅に次いで栄えている。
安養市の名所としては芸術家によるアートが置かれた安養芸術公園が知られるが、そばには川が流れ、心地よい雰囲気だ。所沢市では東所沢に20年に開業したKADOKAWAによる、ところざわサクラタウンが新名所として浮上した。
スポーツではアイスホッケーのHLアニャン、サッカーではFC安養といったチームが本拠地を置く。所沢ではバスケットボールBリーグの埼玉ブロンコスが本拠を置くほか、前述の西武球団、また多摩湖一帯には同グループが所有する西武園として遊園地、ゴルフ場、競輪場といったレジャー施設がある。
そして安養市は冠岳山や修理山などに囲まれ、山林が目立つ。かつてはブドウの産地として名声を誇った。所沢市にも農地が多くて茶畑が目立つが、狭山茶のブランドがよく知られている。また狭山湖周辺にはトトロの森とよばれる緑地が点在する。
また安養市は鶏を素材とした”鶏参湯”を名物料理としているが、今では参鶏湯として市内に名店がいくつか存在する。だが所沢にはこれといったグルメは見当たらない。ちなみに岐阜県各務原市では特産の人参と、姉妹都市である春川市の名物の松の実を使い、各務原キムチを作ったが、同様に新たな料理を創作してみるのも面白い。
筆者は済州島で緑茶参鶏湯のお店を見かけたが、狭山茶を使った参鶏湯を提案したい。

安養駅

所沢駅


閉じる