いま麹町から 29 髙木健一

2023年の重大出来事~韓国の裁判所で日本政府敗訴
日付: 2024年02月08日 10時17分

 昨年(2023年)の重大出来事として、11月23日のソウル高等裁判所による韓国人慰安婦に対する損害賠償認容判決があります。ソウル高裁は「国家による不法行為に対しては主権免除を認めない国際慣習法が存在する」との考え方で、日本政府に対して1人2億ウォン(約2200万円)を支払うように命じたのです。
日本政府はこの判決に対して、国際法上の「主権免除」の原則を認めなかったのは遺憾であるとし、1965年の日韓請求権協定で解決済みだとされていることにも反するとして韓国政府に是正措置を求めました(上川陽子外相)。

もともと「主権免除」の原則は絶対的なものではありません。北朝鮮帰国事業訴訟では、日本の裁判所(東京地裁、東京高裁)は、北朝鮮は未承認国なので主権免除の原則は及ばないとしました。ギリシャやイタリアでも裁判でナチス・ドイツの虐殺などの戦争犯罪には主権免除の適用はないとしています。
何よりも、日本には人の死傷において外国政府に責任を負う場合、その外国政府は「裁判権が免除されない」(対外国民事裁判権に関する法律)との法律があります。
つまり、「主権免除」が適用されるとあぐらをかくのではなく、日本政府も韓国での裁判にまじめに応じなければならなかったのです。「主権国家は他国の裁判権には服さない、これは決まりですから」(菅前首相)として一切対応をしないのは、もはや時代錯誤なのです。
しかも2000年に米国のワシントン連邦地裁に提起された元慰安婦裁判に対して、日本政府はこの訴訟手続に出頭して「主権免除」の主張を行ったのです。ところが、その同じ日本政府が韓国での裁判には一切対応しないとするのは韓国を蔑視したものとさえ言えるのです。

また、前記の上川外相のように、1965年の日韓請求権協定で「解決済み」だと繰り返すのは、何度も私が指摘しているとおり説得力がありません。「解決」したのは国家の権利であって、個人の権利ではないと、日本政府自身が国会で答弁しているのです。その証拠に65年の協定に際して国会で韓国人の個人請求権を消滅させる法律をわざわざ立法しているのです(昭和40年法第144号)。
このように韓国人の個人の権利を消滅させる法律を作ったのは、日韓請求権協定では個人の権利は「消滅させていない=解決していない」からなのです。しかもこの法律は日本国内でのみ適用があるものなので、韓国の裁判所には効力がないのは当然です。
今や政府のみならず、一般メディアも65年の請求権協定で解決済みだと平気で繰り返しています(池上彰氏も)。それ故この協定では、個人の権利が解決されていないのだということを、今後とも私は繰り返し述べていくことになります。

また、上川外相は今回の判決について、韓国政府に対して「是正措置を求めた」とのことですが、制度的に三権分立が確立している他国の司法判決について、行政部(政府)に「是正措置」を求めるのは筋違いなのです。
それとも徴用工裁判の場合のように、韓国の企業などの寄付による財団の第三者弁済方式による解決を考えているのかもしれませんが、それは余りにも厚かましいと思います。
日本政府として責任がないというのなら、韓国の裁判所で堂々と主張をするべきなのです。裁判の過程で慰安婦問題についての歴史的事実(真相)が解明されるのならば意味があります。そして、日本政府が敗訴すれば、賠償金を払えばいいのです。そのような決着が最適だと思います。
そうでないと、このままではいつまでも両国の関係にとげが刺さっているかのように問題が解決しないのです。


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