緊迫化する台湾海峡

「中間線」の形骸化狙う中国
日付: 2024年02月08日 04時54分

 台湾に対する中国の軍事的圧力が強まっている。中国政府は、非公式の境界線「台湾海峡中間線」を無力化する措置を発表する一方、米国と台湾を狙った対艦ミサイル射撃訓練を実施した。万が一、台湾有事が起きれば、周辺国の中で韓国が最も大きな被害を受けると予測されている。
(ソウル=李民晧)

 台湾の中国時報は1日、中国が台湾周辺の空域と海域で軍用機と軍艦の数を増やし続けており、緊張が高まっていると報じた。
台湾国防部は同日、両岸(中国と台湾)が合意して設けた「折衷航路」の閉鎖を中国当局が決定したことについて、台湾海峡中間線の無力化を試みているとした。これに先立ち、中国民間航空局(CCAC)は同日より台湾と合意した折衷航路を閉鎖し、M503航路の使用を続けながらW122W123航路も使用を再開すると発表した。M503航路は折衷航路よりも台湾海峡の中間線に近く、中間線から約7・8キロメートル離れている。これは2015年、中国が一方的に開設を宣言した航路でもある。
台湾政府は当時、これらの航路が軍事用に転用されることを懸念して強く反発した。その後中国との交渉を通じて、中国はM503航路から西に11キロメートル離れた折衷航路を使用し、W122W123航路は使用しないことを決めた。
しかし22年8月、ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問すると、中国側は強く反発し、台湾近くで4日間にわたる軍事演習を行った。台湾海峡の中間線を越えて、中国の艦船や軍用機が近づいたのが確認された。
台湾海峡の中間線は、1954年12月の米国・台湾間における相互防衛条約締結後、中国と台湾の軍事的衝突を防ぐため、米国が55年に宣言した境界線だ。今回の決定についてCCACは「飛行運営の効率を高めるための措置」と説明。中国国務院台湾事務弁公室は「『一つの中国』の原則に基づき、台湾は中国の領土の一部であり、台湾海峡の中間線は存在しない」と主張した。
これに対し、台湾は反発した。台湾民航局は「中国の一方的な航路変更がもたらす深刻な結果はすべて中国の責任だ」と批判し、台湾大陸委員会(MAC)も「台湾海峡の現状を変更するための一方的な試みの疑いがある」と述べ、即時中止を求めた。

 ■中国の台湾侵攻シナリオ

米国ジョンズ・ホプキンズ大学国際問題研究所のハル・ブランズ教授は「中国が統一を名目に台湾に侵攻するというシナリオが現実化する可能性がある。中国は少なくとも五つの戦略を持っている」と指摘した。ブランズ教授は、中国の五つの対台湾戦略のうち最後が「全面侵攻」であると指摘。そのシナリオは、台湾軍と主要インフラ施設に対する中国の大規模な空爆と破壊、台湾の指導者の暗殺から始まると主張した。
中国は今年1月に行われた台湾総統選挙で独立志向を持つ与党・民進党の頼清徳氏の当選以降、軍事的圧力を続けている。選挙直後には戦闘機11機が軍事境界線である台湾海峡の中央線を侵犯し、1月31日にはJ10戦闘機とY8対潜機など22機が出撃。台湾国防部は、このうち11機が台湾海峡の中間線を侵犯したと明らかにした。
台湾は中国軍による侵攻の可能性を懸念している。台湾国防省のシンクタンク、国防安全研究院(INDSR)は1月の報告書で、中国軍が動員する上陸作戦兵力が10万人に達すると予測した。同報告書は、中国軍は台湾上陸と同時に空爆、ミサイル攻撃で台湾軍の指揮系統を麻痺させ、空港・港湾などの主要インフラと産業施設を破壊すると予測した。台湾国防部も「中国と戦争が勃発すれば、(台湾)全域が戦場になるだろう」と指摘した。
中国外交部の王毅部長は1月14日、「台湾独立は中華民族の根本的利益を損なうものであり、死への道だ」と述べ牽制した。

 ■米ブルームバーグ研の予測

最近、米国の経済研究機関「ブルームバーグ・エコノミクス」は「中国が台湾を侵略した場合」と「中国が台湾を封鎖した場合」の二つのシナリオによる経済的被害を分析した。その結果、中国が台湾を侵攻し、米国が介入した場合、世界全体の国内総生産(GDP)の10%に相当する10兆ドル(約1京3000兆ウォン)が減少する経済ショックが発生すると推定した。これは2020年の新型コロナウイルスによるパンデミックと09年のリーマンショックによる損失の2倍以上となる規模だ。
この場合、台湾が受ける経済的被害はGDPの40%に達し、海岸に集中する台湾の産業施設はほとんどが破壊されると分析した。TSMCをはじめとする台湾の象徴的な企業が大きな打撃を受けるということだ。
戦争を起こした中国の経済的被害はGDPの16・7%に達すると予測された。米国はアップルなどのサプライチェーンの混乱により、GDPの6・7%が減少するとされる。
ところが、戦争当事国ではない韓国が、GDPの23・3%という中国よりも大きい被害を受けるとの分析が出された。その理由についてブルームバーグ・エコノミクスは「韓国の半導体産業が最も大きな被害を受ける上、その余波が韓国の全ての産業に悪影響を及ぼす」としている。

 ■韓半島へ戦域拡大の恐れも

中国の台湾侵攻で最悪のシナリオとして懸念されるのが、在韓米軍の出動だ。この場合、中国は在韓米軍基地の打撃を口実に韓国に向けて砲撃する可能性がある。米国の国際戦略問題研究所(CSIS)は「次期戦争の最初の戦い」という報告書で、中国が台湾を侵攻した場合、米国は在韓米軍の四つの戦闘飛行大隊のうち二つの大隊を率いて台湾に投入するものと予測した。在韓米軍は京畿道平沢の烏山、全羅北道群山に空軍基地を持っている。この場合、韓国の意思とは関係なく、中国が韓国に対して報復に出る可能性があり、そうなれば韓国が中国に反撃する流れとなるだろう。
北韓が韓国との戦争に乗り出す可能性も高まる。中国が北韓を煽り、戦線を台湾と韓半島に分けようとする意図がはたらくからだ。ロバート・ガルーチ元米国務省北韓特使(現ジョージタウン大学名誉教授)は、「台湾問題をめぐり米国と中国が対立する中、北韓が中国の思惑で、あるいは独自に韓国を核で威嚇し中国を支援する可能性がある」と見ている。

 

水陸両用の装甲車で内陸での戦闘訓練を行う中国軍


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