金正恩が脅迫・恐喝で危機を煽る理由

高永チョル 韓半島モニタリング
日付: 2024年01月30日 13時00分

 昨年12月28日、金正恩は労働党中央委員会全員会議で次のような対南脅迫発言をした。「南北関係はもはや同族関係、同質関係ではなく敵対的な二つの国家関係、戦争中の二つの交戦国関係に完全に固着しました。有事の際、核武力を含むすべての物理的手段と力量を動員し、南韓の全領土を平定するための大事変の準備に拍車をかけ続けなければなりません」
金正恩のこの発言は、北韓の基本的な対南路線である「一つの朝鮮」政策の変化と対南関係の基本枠組みを変更させた重大な発言だ。北韓がこのように対南強硬路線を取るようになった背景には、慢性的な経済不振と韓流ブームによる動揺階層住民の民心離れを防止するために、国内結束を固めるための布石とみられる。
同族の韓国に対しては脅迫、恐喝をしながら日本には地震慰労メッセージで岸田総理閣下と呼んだ。北韓の「反日扇動」と「反米扇動」は、3代長期独裁体制を支える二つの柱だ。北韓が「不倶戴天之怨讐」という日本の首相に「閣下」と尊称を使ったのは前例のないことだ。
このように前例を破る破格の対日融和路線に舵を切った狙いに関心が集まっている。結論から言うと、北韓の狙いは「通日封南」「通米封南」の外交路線を通して韓国を排除すると同時に、日米韓の安保協力体制の亀裂を狙っていると考える。すなわち、金日成のカックン戦術の延長線であることが分かる。韓国両班(朝鮮王朝の支配層)の笠子帽(カッ)を結ぶ紐(クン)が右側は日本であり、左側は米国であるので、片方の紐を切ってしまえば、韓国は崩壊の危機に直面するという対南(カックン)戦術の延長線上にある。
特に、金正恩が核武力を含むすべての物理的手段と力量を動員して南韓全領土を平定するための大事変準備に拍車をかけていかなければならないと発言した点は、北韓の対南戦略を戦争による武力統一に転換するという脅迫だ。
とりわけ、北韓は4月10日の総選挙を控えて本格的に韓国の選挙を左右する心理工作を繰り返すと考える。言わば、北風とういう韓国に対する軍事脅威を与えて韓国国内の世論操作を通して南南葛藤を唆すはずである。
金正恩は21年4月8日、朝鮮労働党細胞書記大会で「私は党中央委員会から全党の細胞書記たちがますます強固な『苦難の行軍』をすることを決心した」と宣言した。新型コロナウイルスによる中朝国境の閉鎖と国連の対北制裁は北韓の経済状況を著しく悪化させたわけだ。
北韓は1990年代、「苦難の行軍」を掲げ全国民が食糧難で苦しんだ前例がある。国連食糧農業機関(FAO)は報告書で、北韓を外部の食糧支援が必要な45カ国の一つに指定した。北韓は2007年から15年連続で食糧難が続いており、新型コロナウイルスの後遺症で食糧事情はより脆弱化したと見ている。
さらに、FAOの報告書によると、16~19年に北韓住民の47・6%が栄養不足に陥っている。人口の半分が慢性的な栄養失調を余儀なくされているわけだ。金正恩体制にとって一番怖いのは全国的な住民の反体制蜂起である。
現在、北韓の携帯普及は700万台を超えている。住民の大部分が隠れて韓流ドラマを視聴しており、昼は共和国万歳を唱えながら、夜は韓国に憧れている。こういう動きは労働党と軍幹部にも拡散し、面従腹背の雰囲気が広がっている。
因みに、金正恩は常に住民の思想改革を呼び掛けている。しかし、韓流ドラマを通じて韓国の豊かさと自由世界を味わった住民の思想改造は逆戻りできない。北韓は5カ所の政治犯収容所で15万人を強制収容中である。さらに、韓国に定着した脱北者は3万人を超えている。
これから、3代にわたる長期独裁体制は時代の流れに乗って更なる体制危機を迎えざるを得ない厳しい状況に置かれていることが分かる。


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