ディアスポラの語源はギリシャ語の「dia」(遠近距離、複数の方向)と「spero」(種をまく)で、祖国を離れ各地をさまようユダヤ系の流民を指す表現だ。最近では、母国を離れて外国で暮らす人々の総称としても使用される。つまり、「コリアン・ディアスポラ」が在外同胞の代替用語となるケースもあるのだ。
これまで疎外されてきたディアスポラの中で、近ごろ「コリアン・ディアスポラ」系コンテンツの台頭が著しい。先日、米国でエミー賞を受賞したNetflixドラマ『BEEF』は、世相の変化を如実に示している。米国のコンテンツ業界最高権威の賞といえば、映画はアカデミー賞、ドラマはエミー賞だ。
このほどエミー賞を受賞した『BEEF』は、作品賞・監督賞など8部門を総なめにした。監督と主演俳優はそれぞれ韓国系のイ・ソンジンとスティーブン・ヨンで、中国系のアリ・ウォンが主演女優を務めている。ジャンルはコメディーで、韓国よりも米国で人気を博した。
韓国人家族のアメリカ移住期を描いた映画『ミナリ』も各映画祭で受賞し、世界の人々の注目を集めた。そして、韓国人移民家族4世代の生活を描いた『パチンコ』もアップルTVで全世界に配信された。ハリウッド映画にアジア系俳優が登場するケースも増えた。2007年にはわずか3%に過ぎなかったのが、22年には16%にまで増加している。
「ディアスポラ系」コンテンツは、韓国や日本など血統や民族を重視する国、特にアジア圏での人気はまだ低迷している。だが、時代は変わりつつある。国際交流が活発化し、誰もが国境を越えられる現在、新たな物語、かつてない素材を探そうとする流れがある。そうした時代の変化を踏まえると、今後「ディアスポラ系」コンテンツの需要はさらに高まるものと思われる。
「5年前から10年前であれば『BEEF』が受け入れられることはなかったでしょう。今は『多様性』という概念が生まれ、人々は韓国人の経験やアイデンティティーに興味を持ち始めています。私たちのありのままの姿を見せることが、最も普遍的な物語となる可能性もあるのです」(イ・ソンジン監督)。
(ソウル=李民晧)
ドラマ『BEEF』