新解釈日本書記「続」応神 幻の大和朝廷 第26回 伴野麓

日付: 2024年01月23日 10時13分

 安寧を多角的に考察していくと、磯城王国の統領のイメージが浮かびあがってくるし、その実体は、海部氏一族であったことが明らかになる。
海部氏は、尾張氏や物部氏とも同族であり、海神豊玉彦を祖とする安曇氏とホアカリ(火明)を祖とする海部氏が、同一氏族であることを『海部氏勘注系図』は明らかにしている。


 偽書の烙印を押し真実の歴史を封殺

タケタセ(建田背)の元の名である笠水彦は、ホアカリの別名、あるいはホアカリの4世孫で、他方、安寧と同一人(神)格とみられるタケタセはホアカリの6世孫となっている。
そうなると、タケタセそのものの実在もあやしくなってくるのだが、笠水が青銅や製鉄に必要な池、あるいは泉の水という普通名詞であるとすれば、泉を管理するその時々の統領が笠水彦と称されたことになり、何ら問題はないと見られる。
あるいは世襲名であったり、大国主という名称同様に連合体の統領名などであったとすれば、その場合も問題はないはずだ。
京都は丹後の籠(この)神社の宮司家に代々秘伝されてきた『海部氏本系図』と『海部氏勘注系図』の人物が大和の地に深く関わっていたことを明らかにしたが、それは神武東征譚が虚構譚であり、欠史8代と称される第2代の綏靖と第3代の安寧が創作上の人物であることを浮き彫りにしている。
その実体は、神武東征以前に大和の地に居住していたニギハヤヒ(饒速日)とその子ウマシマチ(宇麻志麻遅)の後裔が磯城県主であること、そして安寧が丹後海部氏の始祖ホアカリの6世孫のタケタセであることを突き止められよう。ホアカリとニギハヤヒは同一人(神)格だ。
ホアカリを始祖とする海部氏は、尾張氏や物部氏とも同族であり、海神豊玉彦を祖とする安曇氏とも同一氏族ということを『海部氏勘注系図』は明らかにしている。しかし、『記・紀』はそのような実態を隠蔽し、日本国の歴史を物語として修史したと考えられる。
そのような実態が、『記・紀』という偽史編纂の過程で隠蔽されている。その隠蔽は、国家権力によって陰に陽に敢行されたと思われ、命にかかわる暴力などにより黙視せざるを得ない状況に追い込まれたものと思われる。
その国家権力とは、400年前後に突如大和に侵寇して百済系大和王朝を樹立した沸流百済によるもので、自らの存在を黒子にし、日本の歴史を根底から改竄してしまったと考えられるのだ。
しかし、世の中には真実を求める人士も多く、偽史を強要する国家権力に対して秘かに反発し、『旧事本紀』や『但馬故事記』などを遺したのだと思われる。門外不出とされた数々の史料も同様で、『海部氏系図』などはその典型だろう。そうした史料は、曲学阿世の輩から偽書の烙印が押され、真実の歴史が封殺されたものが多々あったのだと思われる。
それが、日本史学界の現実といってもいいだろう。


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