バイオマス発電に在日事業者が参入

電力の地産地消で地域活性化
日付: 2023年12月28日 11時55分

 忠犬ハチ公のふるさととして知られる秋田県大館市で昨年12月、在日韓国人事業者の運営する木質バイオマス発電所が本格稼働した。新たな事業分野へのチャレンジは在日商工人の間でも注目を浴びている。昨年末の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、再生可能エネルギーを2030年までに現状の3倍に拡大することなどが合意された。世界的規模での取り組みが求められているエネルギー問題に対し、地元の森林資源である秋田杉の有効活用による環境保全とともに、地域経済の活性化を目指す。

大館バイオ 秋田杉の間伐材を有効活用

 木質バイオマス発電所を運営するのは大館バイオ。大館市で1963年から空き瓶回収販売やガラスリサイクルなどを手掛けている北秋容器の役員、従業員などが出資して2021年12月に設立された。
木質バイオマス発電所は事業費24億円で22年8月に着工。23年12月から本格稼働を始めた。タービン建屋の延べ床面積は577・19平方メートル。間伐材などを原料とした木質チップを直接燃焼し、ボイラーで蒸気を発生させ、タービンを回して発電する「蒸気タービン方式」を採用した。1時間あたり3・2トンの木質チップを使用する。発電出力は1990キロワットで、一般住宅約5400戸に電力を供給できる。国の固定価格買取制度(FIT)を利用して、東北電力ネットワークに20年間売電する。温室効果ガスを増やさず、さらに二酸化炭素(CO2)を吸収する森林の保全と育成を行うため、年間約7000トンのCO2削減効果が見込まれている。
発電事業参入のきっかけについて、大館バイオ社長の鄭仁洙・北秋容器社長は「北秋容器として08年ごろから遊休地で手掛けている太陽光発電事業が成功したことと、東日本大震災後の13年から始めた間伐材を原料とした木質チップの製造販売をしているため、参入しやすかった」と語る。

創業者が発案

 なかでも最も大きな影響を与えたのは北秋容器の創業者である鄭源生会長の発案だった。震災後の再生可能エネルギーへの転換を見越しての木質チップ製造への参画も、木質バイオマス発電事業への投資についても、起業家としての鋭い感覚で提言した。
鄭仁洙社長を筆頭に多くの役員らは、多額の投資が必要な発電事業に二の足を踏んだ。それでも先行する木質バイオマス発電事業者への視察を重ねることで、事業として可能性があると結論付けて参入した。
周囲の期待も大きい。秋田県の秋田信用金庫、羽後信用金庫、秋田県信用組合の3金融機関は22年3月、地域活性化や中小企業振興の取り組みへの連携第1弾として、木質バイオマス発電所建設の資金融資を決めた。
在日韓国人経営者はパチンコのほか、飲食業などの事業を営むことが多いが、太陽光を除く発電事業への参入は例がない。北秋容器として60年間にわたりリサイクルなど環境関連事業を手掛け、地元での信頼を得たことが、木質バイオマス発電事業進出への後押しとなった。あすか信用組合は「バイオマス発電への進出は極めて珍しい」としている。

カギは木質チップ

 発電のために最も重要なカギを握るのが、高品質の木質チップ生産だ。原料となる間伐材の秋田杉は、地域の森林組合や生産者などから年間約2万8000トンを購入する。地産地消で地域に貢献するという意図だが、秋田杉は水分量が多いという特徴がある。水分量が多い木質チップは燃焼効率が低下するので、原料の丸太をよく乾燥させることが必要になる。

日々品質を改善

 丸太は半年から1年かけて天然乾燥させるが、日当たりや風通しが悪いと2年経っても全く乾かないこともある。このため適度に丸太同士の間隔を空けて、いかに風通しをよくするか工夫している。ほかに地元の鉄工所とともに独自の乾燥機の製造にも取り組んでいる。まだ生産技術向上の途上にあるが、10年にわたる木質チップ製造のノウハウを積み重ねることで、品質も改善してきた。
鄭仁洙社長は「地元の山林からの間伐材を使用して、地元企業と協力しながら、地域経済活性化に寄与したい」と意気込んでいる。
毎年5億円の売り上げを見込んでいる。鄭仁洙社長は「COP28で温室効果ガス排出を50年までに実質ゼロにする目標で合意したように、再生可能エネルギーへの期待は大きい。発電事業の拡大もあり得る」と明言する。

他社の参入促す

 木質バイオマス以外にも、食品廃棄物や家畜排泄物などの例を挙げて、「独自開発の技術は産業になる。日本は再生可能エネルギー技術が高い。いち早く参入して技術開発し、海外へも進出できるレベルにまで高める必要がある。世界の環境問題に対し、多くの日本企業に果敢に挑戦してほしい」と新規参入を促す。
昨年12月23日には大館市内で竣工祝賀会が華やかに催され、大館市の福原淳嗣市長、秋田県議会の鈴木洋一議員、秋田県信用組合の北林貞男会長らが祝辞を述べた。鄭仁洙社長は「大館市が表明している50年ゼロカーボンシティーの取り組みに寄与する。地域発展のために役立ちたい」とあいさつした。
秋田県大館市を起点に、環境問題解決の一助となるよう尽力する。

地元の間伐材を有効活用する大館バイオの木質バイオマス発電所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

創業者の鄭源生・北秋容器会長

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竣工祝賀会であいさつする大館バイオの鄭仁洙社長

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■木質バイオマス発電 森林での間伐により伐採された木材などは、未利用のまま林地に残置されていることがある。これらの未利用間伐材などを有効活用するため、木質チップに加工して燃料とした発電方式。生物資源である木質バイオマスは、森林による二酸化炭素(CO2)の吸収を通じて再生産が可能であり、森林生態系の再生能力の範囲内で利用すれば、大気中のCO2の量が増加しない。このため木質バイオマスなどの植物由来の燃料は炭素(カーボン)の排出と吸収が差し引きゼロとなる「カーボンニュートラル」とされている。2012年の固定価格買取制度(FIT)施行以降、事業化の動きが活発化している。


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