韓日関係において、両国がより実質的なパートナーシップを実現するためには何が必要なのか。尹錫悦大統領が訪日した昨春を皮切りに、1年間で7回もの韓日首脳会談が行われた。かつてない速さで両国の関係は改善へと向かっている。しかし歴史問題を筆頭に両国間でくすぶり続ける負の感情が消えないかぎり、常に関係悪化のリスクをはらんでいるとも言える。韓日関係に詳しい李大淳・韓日協力委員会委員長、日韓親善協会中央会会長を務めるなど韓日交流に尽力してきた河村建夫元内閣官房長官に話を聞いた。
文在寅政権下で戦後最悪と言われた日韓関係だが、尹錫悦政権発足後、急速に改善へと向かった。
「政治・経済・文化・民間などあらゆる分野で交流が活発化していると感じる。政治面では昨年だけで7回首脳会談を行った。経済面で考えれば、半導体分野などでの相互協力も進み、大きなメリットを生み出すだろう。日韓間で交流が進むことは両国にとっての国益につながる。
日韓関係の改善へと舵を切った尹錫悦大統領は賞賛に値する。世論に左右されず、信念をもって韓国の将来や国益を考え、強いリーダーシップを発揮していると感じる」
尹大統領は徴用工基金を創設するなど、両国間での問題の解決にも取り組んだ。
「韓国側から徴用工基金の創設の話を聞いたときは驚いた。日韓関係を改善するために、尹大統領が本気で取り組んでいると感じた。大統領がそのように積極的に問題解決に動いている以上、韓国側に任せっきりにするのではなく、日本側ももっとやるべきことはあるのではないかという意見も出た。実は前政権下でも韓国側から財団を作り基金を集めて、代弁済するという話は出ていた。ある程度、協議を進めたが、韓国国内で正式に議案化され検討されることはなかった。今回も野党の反対は激しかっただろうが、最後までやりきった。尹大統領が信念を持って取り組んだ結果といえるのではないか」
昨年、日韓パートナーシップ宣言25周年を迎えた。日韓関係が改善に向かっているいまこそ、新たな日韓パートナーシップ宣言を行うべきだという声も両国であがっている。
「当時と今とでは両国間の関係は異なる。韓国の国力は非常に上がった。経済面を見ても世界のトップ10に入るほどの国となった。
パートナーシップ宣言の項目というのは約50にも及び、広範囲に網羅されている。政治・文化、人材交流などさまざまな分野をカバーしているが、それらをなぞるのではなく、現状に合わせて付け加えるものは付け加え、削除するものは削除する。21世紀の新しい日韓関係を作るためのものへと内容を整理しなければいけないと思う。日韓関係を次のステージにあげるための宣言としなければならない。条約にすべきだという声もあがっている」
新時代の日韓関係を作るために必要なことは。
「日韓両国の関係を進化させるためには、若い世代の交流が不可欠だ。次の世代が未来の日韓関係を作っていく。いまの若者は韓国に対して否定的な感情はない。KPOPや韓国ドラマが好きで、韓国文化にあこがれを持つ人も多い。日韓親善協会では韓日親善協会の協力を得て毎年、交互に20人程度を派遣し交流を図っている。いまは高校生が中心となっているが、活動報告の感想文を読むと”感激した”など、喜びにあふれたものがほとんどだ。こういった若い世代が今後の日韓関係をより良いものへとしていくだろう」
次世代交流をさらに進めていくために両国は何をすればよいか。
「両国で受け入れ体制を整えていかなければならないと思う。いま日韓両国での訪問比率は約3対7。韓国から日本に来る人が圧倒的に多い。人口比を考えたら逆であってもおかしくない。韓国側が日本人観光客をもっと呼び込む政策をとったり、PR活動を積極的に展開すれば、日本側にニーズがあるため訪韓者が増えるだろう。日本サイドは韓国への修学旅行を増やすことなども一つの方法だろう」
日韓安保協力関係についてはどう考えるか。
「日韓両国は北韓という共通の問題を抱えている。東アジアでは台湾問題も考えないといけない。またロシア・ウクライナ戦争、イスラエルとハマスの紛争など世界が大きく変化し分断が進んでいる。こういったなか、日韓両国はより緊密な関係を築くこと、特に半導体に代表される経済安保協力は重要といえる。日韓だけではなく米国を含めた3カ国の協力を今後、さらに強化していくべきだろう。レーザー照射などの問題が残されているという声もあがっていると聞くが、日韓関係が良い方向に向かっているいまこそ、解決に向けての対話ができるのではないか。こういう時期にこそ積もっていた問題を解決するためのアクションを起こしたい。そして対話を重ねれば未来に向けてより良い関係を築けるはずだ。東アジアの平和は、世界の平和へとつながると思う。私の子ども時代には38度線が毎日のように動いていた。それが新聞に載っていたような時代だった。韓半島の安定は日本にとっても国益となる。ドイツは統一当時は苦しんだが、困難を克服した」
日韓両国がさらに良い関係を築いていくためには。
「いまのような良い関係を継続していくことが重要だ。私が初めて韓国を訪問したのは県会議員のときで、45年以上前のことだ。この間、両国間の関係は良いときも、悪いときもあった。国のトップが代わることで、両国関係も変化してきた。いまは揺るぎない土台を築くのに絶好の機会だと思う。この機を逃してはいけない。未来志向で新たな日韓関係を構築するにあたって2024年は大切な一年になる」
河村建夫(かわむら たけお) 元内閣官房長官・文部科学大臣・自由民主党副総裁特別補佐。日韓親善協会中央会会長