【金聖大物語】白頭学院~人生の羅針盤~ 第9話

日付: 2023年10月31日 12時32分


 第18代白頭学院理事長の公約
「校舎の建て替えは一任を」

実業家・金聖大にはもう一つの顔がある。「教育者」としての側面だ。次世代育成のため、起業当初から力の及ぶかぎり私財を投じて大阪白頭学院(学校名:建国学校)を支援してきた。同窓会の運営をはじめ、理事や副理事長などを歴任しつつ、陰に陽に学校を支えてきた一方で、組織のトップに就くことは固辞してきた。寡黙な金聖大だったが、やがて学校関係者と卒業生から理事長に就いてほしいという希望が殺到するようになった。
「校舎の老朽化が激しく、地震が起きたら崩壊しかねない状態です。外観だけの問題ではないのです。後輩たちの安全は私たちが守るべきではありませんか。どうか学校運営を引き受けてもらえませんか」
かねてから白頭学院は、老朽化が進んだ校舎の建て替えを検討していたが、旗振り役が現れることは一向になかった。大規模なプロジェクトだったからだ。
しかし、これ以上先延ばしにすることもできなかった。学院の卒業生や後輩らが金聖大を頼ったのは、長年にわたり地道に後輩を支援してきた同氏の姿勢と学校に対する愛情を承知していたからだ。
金聖大は悩んでいた。「果たして私にこの一大プロジェクトの責任者が務まるだろうか」という不安もある一方で、「学校を変えよう」という意欲も湧いていた。白頭学院の理事会では、満場一致で金聖大が理事長に選出された。そして2010年4月7日、第18代白頭学院理事長の就任式が行われた。
「建物が老朽化しているため毎年補修工事を行っています。しかし、阪神大震災のような大災害が起きたら、生徒たちの安全が脅かされる恐れがあります。見積もりでは、リフォームだけで10億円以上を要するそうです。そうであれば建て直したほうがいいと判断しました」
第9期の卒業生でもある理事長・金聖大は落ち着いたトーンでスピーチを続けた。建て替え後の鳥瞰図を公開し、建設計画についてのプレゼンテーションも行った。最後に金聖大は次のように生徒らを激励した。
「皆さん、『なせば成る』の精神で頑張ってください。そうすれば必ず願いはかないます」
生徒らに向けた激励の言葉ではあったが、自らに投げかけた誓いでもあった。誰も一歩を踏み出すことができなかった白頭学院念願の建て替え事業は金聖大がその扉を開けた。
それから1カ月後、権哲賢駐日大使が大阪を訪問した。金聖大はその機会を逃さず、大使を白頭学院へと招待した。大使と共に「幻のフィルム」を鑑賞し、校庭の隅々まで視察した。「幻のフィルム」とは、白頭学院初期の校庭を映像に収めた白黒フィルムで、1946年から続く歴史と70年間にわたり民族教育にいそしんできた学院の宝ともいえる。
視察を終えた権大使は金聖大の手を握り、満面の笑みを浮かべた。在日同胞の次世代教育に向けた学び舎を、政府も共に作っていくと約束したのだ。建て替えの障壁を一つ越えた瞬間だった。しかし、目の前にはさらに高い壁があった。学院の同窓生や在日同胞の有志から建て替えにかかる寄付金を募ることだった。
状況は芳しくなかった。一世から二世、三世へと世代交代が進み、母国に対する関心も下がっていた。数十年間に及ぶ日本の長い不況も悪材料だった。困難は火を見るよりも明らかだった。金聖大は空を眺めながら心の中で叫んだ。
「やればできる。学院は私たちの手で必ず建て直してみせる」
(ソウル=李民晧)


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