【金聖大物語】白頭学院~人生の羅針盤~ 第8話

日付: 2023年10月24日 11時55分


韓日の架け橋となった貿易マン

貿易会社「グローバル」は挑戦を重ねることで着実に事業規模を拡大させていった。「ポリエステルフィルム」の使用用途は多岐にわたるだけに需要も大きかった。ワイシャツの襟に使用するフィルムにおいては、グローバル社が韓国市場を独占したも同然だった。そんなある日、金聖大はフィルム業界トップのD社担当者から面会を求められた。
「金社長、M社製品の韓国への輸出は御社が管轄しているとうかがいました。ぜひ弊社の製品も金社長に取り扱っていただけないでしょうか。条件をご提示いただければ、できるかぎり通すつもりです。どうか我々をお助けください」
黙っていても取引先から商談を持ちかけられるのがD社だ。そんな業界トップの企業が金聖大に協力を求めてきたということは、それだけ市場における「グローバル」の影響力が大きいことを物語っている。契約は難なく成立した。実は金聖大も、起業当初からD社との取引を念頭に置いていたのだ。しかし条件も厳しく、単価も高かったことで断念したという経緯がある。まさに隔世の感だった。
フィルムビジネスは成長の一途をたどった。韓国のビデオ・カセットテープ市場に供給されるフィルムのほとんどは金聖大が仲介した製品だといっても過言ではなかった。タイミングもまた追い風となった。80年代はソニーのカセットラジオが世界市場を席巻し、香港ノワールと呼ばれる武侠映画が流行っていた。今日のコンビニ同様、韓国でもビデオテープのレンタル店が乱立するほど人気を集め、カセットラジオも老若男女が楽しめる娯楽だった。

「韓国と日本、双方に成功を」

金聖大はブラウン管テレビに使用するFBT(フライバックトランスフォーマー)も商材として扱った。取引先は現在、世界のテレビ市場を席巻している韓国のサムスン、LG(当時のGoldStar)などだった。当時、FBTの完成品はすべて日本からの輸入でまかなわれていた。金聖大は韓国企業に専用設備を導入し、国内で製造するよう提案した。すると瞬く間に経費削減が実現し、これを機に後日、韓国企業はFBTの国産化に成功した。
韓日企業間の業務提携でも橋渡し役を務めた。電気の絶縁材「マイカ」を利用した技術を韓国に導入したのは好例だ。技術を持つ日本企業を韓国企業に紹介し、両社の「技術提携」を取り持った。スマートフォンの心臓部に当たる回路基板(FPC)の製作に韓国企業が参加できるよう仲介したのも金聖大だった。
2000年代には、最新技術の分野にも裾野を広げた。代表的なアイテムは磁石だ。現在、日本で開発中の高速鉄道新幹線(リニアモーターカー)プロジェクトに参入し、中核となる部品・マグネット製品を韓国企業から輸入して日本に納品した。リニアモーターカーは磁力で10センチほど浮揚しながら走る列車で、表面摩擦が発生しないため時速500キロ以上で走行することが可能だ。
「輸出入双方の企業が共に満足できる『ウィンウィン(Win―Win)』を目指しました。すると、それまでは100%日本の完成品に頼ってきた韓国企業が国内での生産に成功し、世界規模で最新技術を扱う企業へと変貌していったのです。これには驚かされましたね。企業の成長に微力ながらでも力添えすることができて幸いでした。特に韓日両国のプラスになったことはもちろん、母国の経済発展にも一役買うことができたようでやりがいを感じました」
裸一貫で立ち上げた「グローバル」。金聖大は奇抜なアイデアと人一倍軽いフットワークで成功への道をひた走った。そして大阪の中心部に社屋を構え、社名を掲げた。「グローバル」創業15年目の慶事だ。社屋は貿易業のいろはを学んだ会社「Jキマトライ」のある靭本町から目と鼻の先にあった。竣工した社屋を眺める金聖大の頬には喜びの涙が伝っていた。  (ソウル=李民晧)

金聖大さんが使用してきた「グローバル」社の貿易用語の短文集


閉じる