東京測地系→世界測地系 経済政策で原則を貫く尹大統領

問題山積みで難しいかじ取り
日付: 2023年10月24日 11時46分

 尹錫悦政権発足後、大方の予想を超えるペースで韓日関係が改善してきた。韓米同盟を基軸にした外交・安全保障政策を進めていくなかで、対日関係の改善は必須であったとはいえ、そこには原則主義的ともいえるほど改善に向けての一貫した姿勢がみられた。
原則主義的な姿勢は経済政策の分野でもみられる。ロシアのウクライナ侵攻を契機にインフレが加速し、世界的に利上げが本格化していくという厳しい環境下で、尹政権は出発した。CPI(消費者物価指数)上昇率は2022年1月の3・6%から7月には6・3%となり、その後もしばらく5%以上で推移した。インフレを抑制するために、韓国銀行は21年8月から今年1月までの間に政策金利を7回引き上げた(0・5%から3・5%へ)。
金利の急上昇は住宅価格の下落と住宅投資の冷え込みにつながったほか、債務返済負担の増大を通じて消費余力を低下させた。
国内でインフレと利上げの影響が表れたうえ、世界経済とくに中国経済の停滞によって輸出が減速した。輸出額(通関ベース)は22年10月に前年割れに転じ、今年に入ると2桁の減少幅を記録した。なかでも最大輸出品目の半導体は市況の悪化で30%以上の落ち込みがしばらく続いた。
こうした状況下、尹政権はどのような経済政策を進めてきたのであろうか。
景気対策として金融緩和と財政政策があるが、前者の選択肢はなかった。財政政策を推進するうえで障害になったのが、文在寅政権下での財政赤字の拡大である。同政権が所得主導成長政策の推進と景気対策のために補正予算を相次いで編成した結果、政府債務残高の対GDP比率は17年度の39・7%から22年度に49・7%へ急上昇した。
尹政権は財政の健全化を優先して、景気対策としての補正予算を組んでいない。また今年8月に発表された24年度予算案では、脆弱層に対する支援や将来の成長エンジンを確保するための投資、質の高い雇用創出、子育て支援などに多く支出する計画であるが、歳出額は前年度比2・8%増と、この20年間で最低の伸びになっている。
財政の健全化と並んで、尹政権の経済政策に特徴的なのは民間部門主導で経済の再生を図っていることである。
「23年の経済政策指針」(22年12月発表)では、マクロ経済の安定的管理、国民生活の回復支援、民間中心の経済強化、未来に備えるための構造改革を四つの柱とした。債務増加への対応や不動産市場の軟着陸、セーフティネットの拡充を図りつつ、新成長戦略4・0を掲げて次世代産業の育成強化を進めていく。次世代産業にはAI半導体、エアモビリティ、バッテリーの再利用、水素ビジネスなどが含まれる。
「23年後期の経済政策指針」(今年7月発表)では経済活力の強化が冒頭に掲げられ、民間部門の輸出と投資の回復を金融財政面で支援すると明記した。
輸出額は前年割れが続いているものの、今年9月の減少幅は前年比4・4%へ縮小し、今後の改善に期待が寄せられている。その一方、足元でCPI上昇率が再上昇しているため、利下げは来年になる見込みである。
来年4月に総選挙が実施される。野党が勝利すれば、次期大統領選挙に向けて弾みがつくであろう。大統領選挙で野党候補が当選すれば、対日政策が再び大きく変わる可能性があるため、いやでも関心が向かう。総選挙の投票には、尹政権の経済実績が影響するのは言うまでもない。インフレと輸出減速の影響により、今年の成長率は昨年の2・6%を下回る1%台半ばになる見通しである。
選挙目当ての景気対策に頼らずに、民間主導で経済を再生させられるのか、今後の動きが注目される。総選挙が近づくにつれて、期待と不安が交錯する日々となろう。
(中央大学非常勤講師 向山英彦)


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