【読書】囚われの楽園 李泰炅著/川﨑孝雄訳

日付: 2023年10月17日 13時11分

 1952年、山口県下関市で生まれた著者は60年、両親とともに帰還(北送)事業によりに北韓に渡り46年間を過ごした。2006年に脱北したが、中国の悪質ブローカーに捕まり、密入国となったミャンマーで2年4カ月の刑務所生活を送った後、09年に念願の韓国入りを果たした。
本書の末尾、3カ国を漂った人生で何を学んだのかとの質問に対し、著者は次のように答えた。
「日本では、人が守るべき基本的な『正しく生きる』人間性を学び、北朝鮮では適者生存、『虚偽の忠誠心』という衣服を着続ける『強い忍耐性』を学び、韓国では『政治家と商売人に騙されるな』と学んだ。」
著者は、韓国社会が左派と右派に分断している点を強く警戒する。19年11月、北韓から漁船に乗って脱出した「韓国亡命の意思を明らかにしていた」2人の漁船員を、北に返せば処刑されると知りながら送還した文在寅前大統領に対し、激しい憤りを綴っている。
「北送」のような悲劇を繰り返さないためにも、脱北者の体験を知ることは重要だ。著者の切実な訴えに触れることもできる、資料的価値の高い一冊といえる。
ハート出版
定価=1650円(税込)


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