いま麹町から 23 髙木健一

戦後補償国際フォーラム④ その意味するものとは
日付: 2023年10月10日 13時09分

 前述したように私たちは1991年から96年の5年間の間に4回の戦後補償国際フォーラムを開催し、アジア各地の戦争被害者の声を日本社会に届ける作業をしました。
参加した被害者はサハリン残留韓国人、在韓被爆者、太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会(元慰安婦を含む)を始め、中国、台湾、香港、フィリピン、マレーシア、シンガポール、インドネシア、マーシャル、ナウル、パプアニューギニア、アメリカ(アッツ島)などでした。、未だ未解決の戦争被害者が広く存在しているのです。
また被害の種類も強制連行・強制労働や虐殺、レイプ、慰安婦、軍人・軍属や兵補、軍票などによる財産被害など多種多様かつ深刻です。
私は、日本の戦争によってこれだけのアジア地域全体への多様かつ深刻な被害の実態があることを、日本社会に初めて示すことができたと思います。
しかも全てが未解決なのです。日本は敗戦したので何もせずに済ませようとしても被害の事実と恨みは残ります。日本国としてはこれらアジアの被害者に償うべきです。

平和的生活をしていたところに突然日本軍がやってきて、様々な被害を与えたのですから補償するのは当然ではないでしょうか。
補償はその地域の国にではなく、被害者個人に償いを届けなければならないと思います。
例えば、アジア女性基金は韓国・台湾・フィリピンそしてオランダの元慰安婦に対しては、一人一人に対し、日本の総理大臣のおわびの手紙と国民からの200万円、日本政府からの300万円(フィリピンは120万円)の償い金を届けたのですが、インドネシアについては、インドネシア政府の意向によって、個人に渡すことのない社会政策を要求され、インドネシア各地に老人ホームをつくり、元慰安婦には優先入居権を認めるという方式を採用したのですが、これでは全く不十分です。
インドネシアだけでなく、北朝鮮や中国にも多くの元慰安婦がいます。韓国と同じく公平な償いをしなければなりません。
戦後補償の世界の事例としてアメリカやドイツなどの先例と理論を研究しました。

アメリカでの日系人強制収容はアメリカ国民の憲法上の差別の問題でした。
ドイツは戦後直後の占領時代にユダヤ人を始め被害者への補償のための政策が相当程度に進展した上に、2000年頃までにはアメリカでドイツ企業を相手とする裁判が頻発したことにより、応訴するための弁護士費用がかさみ、ドイツ企業は音を上げたのです。
そこでアメリカ政府の協力でドイツ政府とドイツ企業が折半で約5兆円の基金をつくり、ユダヤ人などの強制労働被害者(150万人)に1人2500~7500マルク(15~40万円)を支払ったということです。
日本のアジアの戦争被害者もドイツに比べて引けを取らない数があります。韓国政府は日本時代の戦争被害者に100万円単位で補償を行っています。日韓請求権協定で解決済みにしたことから、として代わって支払ったのです。従って日本の場合、1人当たりの支払額はドイツの強制労働被害者の10倍になってもおかしくないのです。

もし基金を作るのなら50兆円でも償いきれないことになります。戦争を起こすのはそれだけの負担を後世に残すのです。この戦後補償責任の考え方が一般化すれば、戦争を止める最も大きいブレーキになると思うのです。
1990年のイラクによるクウェート侵攻に対して国連は補償をさせ、30年後の2021年までにイラク政府は6兆円の賠償金を支払ったのも前例になります。この点、ロシアによるウクライナ侵攻はどうなるでしょうか。

 


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