ソウルを東京に擬える 第23回 郊外の街①

米軍基地の歴史が重なるベッドタウン 立川・議政府
日付: 2023年10月03日 13時15分

 ソウル特別市と東京23区は人口も面積も同程度だが、東京都には多摩地区や島嶼部がある。あえて例えるならば、多摩地区は京畿道や仁川の一部となり、仁川沖の小さな島々が伊豆諸島や小笠原諸島となるだろうか。今回は両都市の郊外の街にスポットを当ててみたい。
東京の郊外で近年、駅周辺の発展が著しいのは立川である。1889年の甲武鉄道の開通とともに立川駅が開業、大正期には立川飛行場が建設され、その後民間輸送も行われたが、主に軍用として使用され、戦後には米軍基地となり、1977年に返還された。今もなお自衛隊の立川駐屯地があるが、軍事的なイメージは消え、”基地の街”は過去の姿である。
新宿駅からJR中央線で40分弱の立川駅には、ルミネやグランデュオといった駅ビルがあり、駅前には家電量販店や百貨店が立ち並ぶ。駅舎とつながるペデストリアンデッキを歩く人々や、駅の南北をまたぐように多摩モノレールが交差する姿はとてもダイナミックだ。
かつての米軍基地の跡地の一部は昭和記念公園になり、94年にはファーレ立川という名称でホテル・映画館・オフィスなどが建設され、街にアートがちりばめられた。2010年代にはIKEAやららぽーとなどの商業施設が開業するなど、飛行場の広大な土地が再開発されて発展を続け、八王子を凌ぐ多摩地区最大の商業街となった。
このような立川の開発ぶりは地下鉄1・4号線が交差するソウル道峰区の倉洞駅周辺にも似ている。倉洞は新宿からのJRでの距離感では吉祥寺あたりだ。倉洞駅前にはこぢんまりとした商圏が形成されているが、少し離れるとアパートが密集する。駅前には16年にプラットフォーム倉洞61というコンテナモールが開業し、TWICEのMVのロケが行われたことでも知られる(22年閉業)。さらに駅周辺にはロボットやAI、VRをテーマとするソウルロボット人工知能科学館が23年中に建設され、25年には大手IT企業のKAKAOによるKPOP専用のコンサートホール、ソウルアリーナが完成する予定だ。
倉洞駅から1号線をさらに北上すると、ソウルを抜けて京畿道議政府市に入る。都心からの距離感としては立川と似ている街が議政府であり、ソウルの市庁駅から約50分弱に位置する。議政府駅は1911年に京元線の駅として開業、朝鮮戦争当時はソウルへの関門として激しい戦闘が繰り広げられた。現在は立川と同様にベッドタウンとしての性質もある。
駅ビルには新世界百貨店があり、駅の近くには幸福路という中心街や、在来市場がある。議政府という地名は、朝鮮初代王の李成桂がこの地にとどまり、重臣たちを呼び寄せて政務を行ったことに由来し、幸福路には像が立っている。議政府駅のそばには2012年開業の議政府軽電鉄が高架を走る。議政府も立川のように米軍基地の街で、市内にその敷地が点在していたが、徐々に返還されて跡地の開発が進む。基地の街だけあって、立川にもかつては赤線地帯があり、俗にいう”パンパン”が存在していたが、議政府にも基地村という米兵のための遊興街があり、米兵相手に春をひさぐ”洋公主”と呼ばれる女性たちがいた。
また議政府は米軍の物資であったスパムやソーセージなどをチゲに入れた部隊チゲの発祥の地ともいわれ、専門飲食通りがある。このように軍隊の要素がご当地グルメとなっている例としては神奈川県横須賀市の”よこすか海軍カレー”が挙げられるだろう。
東アジアのメトロポリスであり、ともに米軍が駐在するソウルと東京。郊外までそっくりというわけではないが、基地の街として共通する場所が、返還後の土地開発にどのような違いが出るのかも気になるところだ。

議政府駅

立川駅


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