仲邑菫女流棋聖が韓国に移籍

囲碁強国での活躍を期待
日付: 2023年09月20日 12時43分

 囲碁の仲邑菫(なかむら・すみれ)女流棋聖が、日本棋院から韓国棋院へ「客員棋士」として移籍する。日本人棋士の海外移籍は初めて。韓国は世界的な囲碁強国であり、レベルの高い環境に身を置くことで、自らの実力の向上を図る。野球選手が米大リーグ、サッカー選手がセリエAを目指すような若き勝負師の挑戦に、関係者らもエールを送っている。

 仲邑菫女流棋聖は、父に仲邑信也9段、母が元囲碁インストラクターという両親の元に生まれた。3歳から囲碁を始め、6歳から4年間、韓国で囲碁修行に励む。大会で優勝するなど着実に実力を伸ばしていた2019年4月、日本棋院が小学生を対象とした「英才特別採用推薦棋士」の第1号として、当時史上最年少の10歳0カ月でプロとなった。今年2月には女流棋聖を獲得し、13歳11カ月で史上最年少タイトルホルダーとなる。
日本で輝かしい戦績を挙げ、将来を嘱望されている状況下で、なぜ韓国へ移籍するのか。本人が公式に声明を発していないので、動機は分からない。
中高生時代に、日本棋院の院生として棋士を目指していた囲碁愛好家の30代大学講師の男性は、「世界でも中国と並んで1、2を争う囲碁強国で、実力を伸ばしたいのだろう」と推測する。
かつては、韓国から趙治勲名誉名人や、台湾から林海峰名誉天元が来日して日本棋院に所属するなど、日本の囲碁は世界トップの実力を誇っていた。
しかし80年代終わりごろから2000年代にかけて、のちに世界最強、歴代最高と評価される韓国の李昌鎬棋士が台頭する。1988年のソウル五輪以降、韓国が急速に国際社会で地位を向上させたのと軌を一にするように、韓国囲碁もレベルアップし、日本を凌駕するようになった。
なぜ韓国の囲碁は急速に成長したのか。中国もそうだが韓国ではトップクラスのプロが一堂に会して実際に研究したり、対局する機会があり、囲碁漬けになる環境がある。それに対して日本では棋戦が多く、地方遠征もあるので、トップクラスのプロは休む間がなく、研究の時間も満足に取れない。また、かつての日本では師匠の自宅に同居する内弟子制度が囲碁漬けの修行を可能にしてきたが、時代の変化とともに維持できなくなった。
愛好家の男性は「これまでの育成システムが機能しなくなったことが大きいのではないか」と日本の囲碁衰退の要因を分析する。
韓国は女流棋士のレベルも高い。女流最強と評価される崔精九段は2022年三星火災杯世界囲碁マスターズで、女流棋士としては初めて男女混合国際棋戦で準優勝した。
愛好家男性は仲邑女流棋聖について「女流で強くなりたいのか、男性もいる中でも強くなりたいのか分からないが、いずれにしても高いレベルで鍛えられるだろう」と予測する。
収入面ではどうか。日本は棋戦の数が多く獲得賞金額も高い。愛好家男性は「レベルの高い韓国より日本の方が勝ちを重ねられるだろう。収入だけでみれば、日本より稼げなくなるのではないか」とみている。
それでも野球やサッカーのトップアスリートが海を越えて世界に名を轟かせたように、若者のチャレンジ精神に夢が広がる。日本棋院の小林覚理事長は「より高いレベルで囲碁の技量を高めたいという気持ちは当然のことであり、仲邑女流棋聖のチャレンジを積極的に応援する」と話した。
愛好家男性は「閉鎖的な日本の囲碁界が国際化し、レベルアップのきっかけになるのではないか」と期待を込める。
囲碁への注目度向上だけでなく、仲邑女流棋聖の活躍次第では、韓日交流の進展にもつながるかもしれない。

日本人棋士として初めて韓国棋院に移籍する仲邑菫女流棋聖(韓国棋院提供)


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