度重なる失敗に金正恩氏も激怒

デイリーNK 高英起の高談闊歩
日付: 2023年08月29日 13時01分

 北韓が軍事偵察衛星の打ち上げに失敗した。北韓の国家宇宙開発局は8月22日、24日から31日の間に衛星打ち上げを予告。「衛星」と称しているが、人工衛星を搭載した発射体には大陸間弾道ミサイル(ICBM)技術が使われる。国連安全保障理事会の北韓制裁決議は弾道ミサイル技術を用いたあらゆる発射を禁じており、衛星の打ち上げも決議違反にあたる。韓日米政府は国連安保理決議に違反するとして中止を強く求めたが、北韓はいつものように反発を顧みず24日の午前3時50分ごろ、衛星を搭載した発射体を打ち上げた。ところが、衛星発射は失敗に終わる。北韓国営の朝鮮中央通信は約2時間半後、国家宇宙開発局が北西部・東倉里(トンチャンリ)の西海衛星発射場から新型衛星キャリアロケット「チョンリマ(千里馬)1型」で軍事偵察衛星「マンリギョン(万里鏡)1号」の2回目の打ち上げを行ったが、3段目飛行中に非常爆発システムにエラーが生じ失敗したと報じた。
国家宇宙開発局は、「当該事故の原因が段階別エンジンの信頼性とシステム上の大きな問題ではないと説明し、原因を徹底的に究明して対策を立てた後、来る10月に第3次偵察衛星の打ち上げを断行する立場」だと伝えた。北韓は5月に最初の軍事偵察衛星の打ち上げを行ったが、その際も「千里馬1型」が海に落下して失敗に終わっている。今回は満を持しての再挑戦だったはずだが、あえなく失敗してしまった。
北韓はこれまでも、失敗を繰り返しながら弾道ミサイル技術を向上させてきた。その裏では人命においても財政面でも多大な犠牲を出している。それを乗り越えての大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発は、金正恩総書記にとって最大の「業績」と言えるものだろう。しかし、ミサイルよりさらに高コストと見られる偵察衛星の打ち上げに連続して失敗したことは、北韓技術陣は「このへんが限界」であることを示しているように思える。1回目で落下したロケットの一部は韓国が回収しており、いずれその評価が部分的に明らかにされるかもしれない。
技術面ではそうした分析に頼るとして、気になるのは金正恩氏の行政手法だ。同氏は技術的失敗に関しては現場の責任を問わず、むしろ激励して成果を伸ばしてきたと見られる。だが、6月に行われた朝鮮労働党中央委員会第8期第8回総会拡大会議では、担当者たちの「無責任さが辛辣に批判された」と朝鮮中央通信が明らかにしている。現場に対して公開的にプレッシャーをかけ、2回目での成功を至上命題としたのだ。
そして今回の失敗を受け、金正恩氏はどのような行動に出るか。そうでなくとも同氏は最近、不機嫌さを増している。干拓地の冠水を巡っては、金徳訓(キム・ドックン)総理の対応が「無責任」だったために、国家経済に深刻な損害を与えたと激怒した。総理を名指ししての批判は異例だ。
度重なる失敗にしびれを切らした金正恩氏が、これまでのような「現場を伸ばす」手法を維持できず、過酷なペナルティーを与える行動に出れば、北韓の技術的難関はむしろいっそう深まるのではないだろうか。


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