横浜市中区「コリアタウン」誕生

街の再生と新たなビジネスチャンスに
日付: 2023年08月15日 12時00分

 横浜市中区に先月、日本で最も新しい「コリアタウン」が誕生した。かつて市内有数の繁華街としてにぎわいをみせていたが、長引く不況とコロナ禍の影響などもあり、客数が減少して空き店舗も増え、街の再生が長年の懸案となっていた。ここ10年ほど続く韓流ブームに乗り、復活の起爆剤として期待がかかっている。発案者の地元の企業家・金時鐘さんは「横浜には全国的に有名な中華街があるが、並び称される存在に育て上げていきたい」と意気込んでいる。

 新たなコリアタウンが登場したのは、JR関内駅北口から京浜急行日ノ出町駅方面へ徒歩7分ほどの横浜市中区福富町。伊勢佐木町商店街メインストリートから1本北側に入った通りから大岡川までの区域。大小の飲食店がひしめく市内有数の繁華街として、高度成長期ににぎわいをみせた。しかしバブル崩壊後は、韓国人のほか、フィリピン、中国、台湾、タイ、ロシアなど外国人が出店するようになった。
長引く不況や少子高齢化、東日本大震災の影響のほか、2020年からのコロナ禍が追い打ちをかけさらに客足が減り、空き店舗が目立つようになっていた。

突然のひらめき

 活気を失っていく街で商店主らが頭を悩ませているなか、福富町を中心に飲食店やホテルなどの事業を手広く手がける金時鐘さんはある日、商店街の通りを見上げて、「入り口にゲートを設置してアピールしよう」とひらめいた。このときの心境について金さんは「再び活気とにぎわいを取り戻すために、インパクトのある仕掛けが必要だと思った」と振り返る。
福富町商店街は、バブル期以降、経営者の高齢化や後継者難によって店舗がテナントとして貸し出されるケースが増えた。まず韓国人が出店し、その後アジア系をはじめとしたさまざまな国の外国人が続いた。多国籍の人が働いていることから、「福富町国際通り商店街」と呼ばれるようになる。
なかでも半数が韓国系で、韓国料理、食材、物産などを取り扱う店舗が目に付く。2000年代初頭以降の韓流ブームのころから、韓国人経営者と町内会がコリアタウンとしてアピールしようという構想で活動し、さまざまな人からSNSなどで認識されるようになった。しかし東京・新大久保や大阪・鶴橋の大阪コリアタウンのように韓国色を前面に押し出しているわけではない。

日本初? の試み

 初めはゲートに「福富町国際通り」と表示することも考えたが、金さんは「それでは印象が薄くなってしまう。強いインパクトを与えるにはコリアタウンを強調するしかない」と地元商店街や町内会などの関係者を説得して回った。当初、一部では反対の声もあったが丁寧に説明を重ねた。
福富町町内会の平山正晴会長らの理解を得て、同町内会で設置することが決まり、7月21日に地元関係者らが出席して華々しく、除幕式が行われた。設置されたゲートには「KOREATOWN(コリアタウン)福富町国際通り」と表記され、コリアタウンを際立たせている。
街の通りに「コリアタウン」とはっきり表記した看板を掲げているのは新大久保にも鶴橋にもなく、日本初とみられる。
除幕式後の披露式典で福富町町内会の小島正男副会長は「町内会として大変喜ばしい」とあいさつした。発案者として金さんは「多くの人が理解してくれた。横浜中華街のように、幅広い年齢層の人から親しまれ、繁栄する街にしたい」と感謝の意を表した。
地元の民団横浜支部の朴昌泳団長や、同婦人会関係者も式典に駆けつけた。横浜で事業を営む韓国人経営者団体のKOREA横浜商工会の李根澤会長は、「涙が出るほどうれしい」と声を弾ませた。

外部の参入歓迎

 これまでの繁華街としての一面だけでなく、平日の日中に若い女性や家族連れが安心して歩くことができる街づくりを構想している。例えばおしゃれなカフェができるだけで、通りの雰囲気や客層ががらりと変わる。そのため外国人も含めた外部からの経営者の参入を歓迎している。後継者難で空き店舗を持て余したオーナーにとってもメリットがある。すでに大阪で飲食チェーンを展開する韓国人経営者が出店したほか、東京の韓国人経営者も関心を示している。
外部からの若い起業家の参入について金さんは、「自らリスクを取って起業する若い人には、かつての自分をみるようで大いに共感できる」と期待している。今回のコリアタウン構想には、外部からの起業家に進出してもらうことで、創業者のあとを継いだ2代目経営者に刺激を与える狙いもある。「2代目には物足りなさを感じる。親から受け継いだ事業を守ることに精一杯で、経営者らしいチャレンジ精神がみられない。斬新な事業アイデアを持った起業家の姿をみて、危機感を持ってもらいたい」と苦言を呈する。

次世代に託す

 日本全体で高齢化が進み、衰退に向かっているのではないかと不安視する見方については、「まだまだビジネスチャンスにあふれている」と希望を持っている。例えばインドは人口で世界最大の国になったが、インフラや衛生面、治安の問題もあり、進出することは簡単ではない。しかし日本はいまだに経済大国として世界で存在感を維持している。
金さんは「自分の足元をみることが大事」と語ったうえで、「地元の福富町にも空き店舗がたくさんある。なぜここに出店しないのか。私自身にもさまざまな事業構想があるが、次世代にまかせたい」と新たな起業家の誕生を促す。
今回のコリアタウン構想について「半世紀にわたり企業家として育てていただいた福富町に、再生のためのきっかけをつくりたかった。他にはない個性的な冠をつけて次世代に引き渡したことは、人生最後の地元への恩返しだと思っている」と意義について述べる。
地元の横浜から、日本全体を視野に入れた活性化に思いを馳せる。

国内に前例のない「KOREATOWN」と表記したゲート


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