日常に根付く東洋医学「韓方」

日本で関心高まる
日付: 2023年08月15日 10時38分

 韓国では、漢方を「韓方」と表現する。そのルーツは中医学にあるが、韓国では独自な発展を遂げ1986年から韓方と表記するようになった。韓方は中国の漢方を基に独自の発展を遂げた。韓国では韓医院で治療を受けたり韓方薬を調合してもらったりと生活の中にはなくてはならないもの。近年、日本でも韓方への関心が高まっている。芸能界きっての韓国通として知られる俳優・黒田福美さんと、日本韓方協会の金允愛代表に韓方の魅力を聞いた。

「治療以外に美容・ダイエットにも」

俳優・黒田福美さんに聞く

 1980年代という”韓流ブーム”のはるか前から韓国と深く交流してきた黒田さん。2020年に『黒田福美の韓方案内』(ウリアカデミー)を出版、日本に韓方の魅力を伝えている。7月30日には名古屋で韓方セミナーを開催、多くの人が参加した。
黒田さんは「日本人は『漢方難民』」と断じる。
明治期に日本の医学界は漢方を捨て西洋医学へと大きく方向転換した。日本の「医師開業試験制度」において西洋医学の知識が重んじられ、漢方医師たちは不利な立場に追い込まれる。また相次いで起こった戦争も西洋医学を選択するうえで一役買った。病巣を取り去り、傷を縫い、抗生剤などを使うといった合理的な西洋医学は戦場医学に適していたのだろう。
韓国でも日本の影響を受けて漢方は衰退するが、解放後、復権を求める漢方医師たちによって復活し、12の大学に韓方医学科が設立された。
日本には韓方医学科はなく、一度医学部を卒業して専門医になり、その上で更に興味があれば漢方を個別に学ぶしかない。韓方医師としての個々人の力量は、日本と韓国では圧倒的に違ってくるというわけだ。
さらに今日の韓方は近代化しており、さまざまな先進的機器も導入され、より優れたものになっている。
「漢方というと腰痛や肩こり、冷えなどといった加齢によるものや婦人病治療を連想しがちだが、美容やダイエットにも効果を発揮している。韓方の素晴らしさは対症療法ではなく、人が根本的に元気になることを重視する。そのため難病や不妊など西洋医学に限界を感じた方たちからの関心を集め、成果も出ている」
日本では衰退した漢方の灯りは隣国では輝いている。それは日本で暮らす人にとっても宝であるに違いない。各地での講演やツアーなどを積極的に行い、韓方の魅力を広く伝えていきたいと黒田さんは言う。

「特別なものではなく日常」

日本韓方協会・金允愛代表に聞く

 金允愛さんは京都生まれの在日三世。祖父母が韓国食材店を経営していたこともあり、幼い頃から日常生活に韓方がある環境で成長したという。
「食べる物はすべて”薬”という考え方がごく当たり前のような環境だった。例えばよもぎはとても苦いもの。春になれば父が山に入りよもぎを摘んできて”体に良いから”と言われ頑張って口にする、といった日常を過ごしていた」
母親が病に伏せったのをきっかけに、東洋医学の中核となる「中医学」を学び始めた。当時は「韓方」も「漢方」も東洋医学としてひとくくりに考えていたという。学ぶ過程で「中医学・中国」「韓医学・韓国」「漢方医学・日本」は独自のもので、成り立った背景や治療に対する考え方まで異なるということを学んだ。韓国にルーツを持つ金さんは韓方の素晴らしさを誇りに感じた。そして韓国人の日常生活の中に自然に溶け込んでいる「韓方」をもっと多くの人に伝えたい、知ってもらいたいという思いに変わってきた。2020年に日本韓方協会を設立。セミナー、韓方体験ツアーなどさまざまな活動を行うように。
「いまの医療は治療が優先になっていると感じている。もちろん、西洋医学で多くの人が助けられている。ただ、韓方を日常に取り入れるだけで、病気を予防し心身ともに健康な生活を送るための手助けになると思う。在日三世は韓国の良さを伝えられる最後の世代だと思っている。今後も韓国の魅力を日本に伝えていきたい」

 


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