金与正氏は兄以上の「強硬派」か

デイリーNK 高英起の高談闊歩
日付: 2023年07月18日 12時31分

 北韓は7月12日午前、弾道ミサイル一発を韓半島東の海上へ向けて発射した。防衛省によると、最高高度が6000キロを超える大陸間弾道弾(ICBM)級のミサイルと見られる。2023年に北韓が弾道ミサイルを発射するのはこれで12回目だ。ここ数日、米軍の偵察機が同国経済水域に侵入したなどとして米国への非難を繰り返しており、それを理由とした挑発行動かもしれない。防衛省などによると、ロフテッド軌道で発射されたミサイルは約74分間飛行しており、通常角度での発射なら米国全土を射程に捉えるとされる。ここまでは北韓のいつもの行動のようだが、最近少し気になる動きが見られる。
北韓国営の朝鮮中央通信は8日、金正恩総書記が祖父・金日成主席の29周忌に際して、金日成氏の遺体が安置されている錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を参拝したと報じた。ただし、従来と異なり写真を公開しなかった。金正恩氏の参拝は、大勢で行ったり少人数で行ったりと、必ずしも決まったパターンはないのだが、写真を公開しない理由が思い浮かばない。6月中旬に開かれた朝鮮労働党中央委第8期第8回総会拡大会議に参加したときの写真は公開されている。大事ではなくても、金正恩氏の健康問題に些細な異変が起きている可能性も拭えない。
金正恩氏の動静が気になる一方、実妹の金与正(キム・ヨジョン)北韓労働党副部長が前面に立ちながら存在感をアピールしている。金与正氏は10日、11日、13日、14日に談話を発表。これほど頻繁に談話を発表するのは極めて異例だ。10日に発表した談話では、米軍が警告に従わなければ「衝撃的な事件」が起き得るとして、撃墜まで示唆した。ここ最近の金与正氏は北韓を代表する「強硬派」と言っても過言ではない。
金与正氏は、18年の平昌オリンピックに特使として訪韓。金日成ファミリーとして、はじめて南側に足を踏み入れた人物として外交デビューを果たした。この時、序列でははるかに上位だった90歳の金永南(キム・ヨンナム)氏が金与正氏に上座を譲った。当時、対外的な国家元首だった金永南氏よりも、実質的に金与正氏の序列が上、すなわち金正恩総書記に次ぐ地位であることを知らしめた。同年、シンガポールで行われた初の米朝首脳会談にも随行して、金正恩氏の秘書として振る舞った。金正恩・与正兄妹が北韓政治を動かしていることを、世界にアピールした。
その金与正氏はちょうど3年ほど前、脱北者ビラ問題とからめて韓国との南北共同連絡事務所を爆破し、「強硬派デビュー」を飾った。その後も、金与正氏が対米、対韓非難の役割を担っているようだ。もちろん、兄である金正恩氏の身に何かあった場合、体制を継ぐのは(少なくとも当面は)間違いなく金与正氏だ。そのためにも「強硬派」の一面をアピールすることは必須条件である。ひらたくいえば「なめたらいかんぜよ」である。現時点ではなんともいえないが、金正恩氏の動静が不明ないまの局面では、今回のミサイル発射や、これに続いて繰り出される強硬措置は、金与正氏の指揮によるものである可能性もある。


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