北ハッカーの起点は韓国

2002~05年の対北支援が養成資金に
日付: 2023年07月18日 11時11分

 外貨稼ぎの手段となっている北韓のハッキング技術が、その実力を世界に知らしめた。米IT企業が主催したハッキング大会で、北韓の大学生たちが1位から4位までを占めた。当時の金大中政権による対北支援金が北韓のハッカー育成に活用され、ブーメランとなって韓国が攻撃されている、との批判も噴出している。

(ソウル=李民晧)

 


米大会で北韓学生が1~4位

 北韓のインターネット使用率は人口の1%に過ぎないとされている。ところが韓国情報当局は、北韓には世界で3本の指に入るハッカー軍団が存在しているとみている。
実際に今年5月、米サンフランシスコのIT企業が主催したハッキング大会で、北韓は優秀な成績を収めた。世界各国から約1700人が参加する中、北韓の金策工科大学の学生が800点満点で1位となった。2位は金日成大学、3・4位は金策工科大学で、1位から4位までを北韓の学生が席巻した。
北韓は、インドのソフトウェア開発会社「ディレクティ」が主催する大会でも抜群の成績を収めた。世界約80カ国から2万人が参加した大学生プログラミング大会で、北韓は2013年から20年にかけて18回も優勝している。
北韓のハッカー軍団は、かつての東欧共産圏のエリートスポーツ選手育成プログラムと酷似している。幼少期から才能ある人材を発掘し、成長過程において特別な管理を施すことでエリートハッカーを養成するのだ。
韓国が対北制裁の対象項目に北韓の中学校を挙げた理由も、この点に関係している。北韓最高峰の中学校「金星学院」がその代表例だ。金正恩の夫人・李雪主の母校でもある同校は、芸術分野の名門校として広く知られているが、情報技術(IT)分野でもトップレベルであり、北韓の「サイバー戦士養成士官学校」としての役割を果たしている。

5年間で4000億円を強奪

20年の国防白書では北韓のハッカーの数を6800人と見込んでいるが、専門家らは1万人に達するものとみている。北韓偵察総局はラザルス、キム・スキ、アンダリエルといった悪名高いハッカーグループを抱えている。彼らは世界の金融機関と暗号通貨取引所から数兆ウォンもの資金を奪ったほか、韓国の原発技術までも盗み取っている。
このうちラザルスは、偵察総局の所属で、暗号通貨のハッキングによって違法な外貨稼ぎを行ったハッカー集団だ。昨年、ゲーム会社「アクシーインフィニティ」から6億1500万ドル相当の暗号通貨を盗んだことが明らかになった。
ハッカー養成機関として注目すべきは指揮自動化大学だ。この機関は北韓人民軍総参謀部の傘下で1986年に設立され、毎年100人のハッカーを輩出している。
北韓はこの5年間で、これらのハッキング部隊を動員して暗号通貨を強奪し、その収益は3兆8000億ウォン(4000億円)と推定されている。この額の半分以上を弾道ミサイルの開発や打ち上げに費やしたと、米情報当局は分析した。


秀元駐日大使も被害に

 北韓のハッカー軍団は韓国のネットユーザーも狙っている。国内最大のポータルサイト「ネイバー」を詐称・複製しユーザーに接近するのは日常茶飯事であり、最近では通信会社「KT」の明細書を偽造したフィッシングメールを発信している。明細書の確認欄を見たユーザーが自身のパスワードを入力した瞬間、すべての個人情報が北韓のハッカーに渡ってしまう。
こうしたフィッシングメールには申秀元駐日大使も被害に遭った。米国の北韓専門メディア「38North」の研究員を装ったメールを送受信したことでハッキングされたのだ。その後、北韓のハッカーとみられる人物は申秀氏のアカウントで主要国の韓国大使らに電子メールを送り、2度目のハッキングを試みた。それによる被害の規模は不明だが、外交官や教授らがハッキングに遭ったのは明らかだ。
北韓が世界的なハッキング技術を備えるに至ったのは、金大中と盧武鉉のおかげだとの指摘もある。韓国は2002年から05年にかけ、北韓に対してソフトウェア技術の人材育成を名目とした資金を支援し、これらを利用して北韓の高度IT人材がインドに留学した。対北支援金が核開発の資金源となったのはもちろん、ハッカー養成の土台となった。
現在、北韓のハッカー軍団は韓国政府や金融、放送局にも絶えずハッキングを試みている。甚だしくは原子力発電技術や建設図面までも、北韓に盗まれたことが明らかになっている。1万人に上るエリートハッカーがいるからだ。一方で、韓国国防部のサイバー作戦司令部の要員はおよそ1000人に過ぎないという、深刻な現実がある。

 

北韓の学生らは平壌の万景台少年学生宮殿でPC操作を学んでいる(2018年4月)


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