修能から「キラー問題」を排除へ

高騰する私教育費の是正必要
日付: 2023年07月04日 12時57分

 毎年11月中旬の木曜に行われる韓国の「大学修学能力試験」から、超難問とされる「キラー問題」を排除せよという尹錫悦大統領による指示が出され2週間ほど経つ。教育部では実例を提示しつつ、難題に該当する問題の特徴や傾向を明らかにした。約4カ月後の実施となる入試の難易度を下げる決定により、わずかな誤答も許されないという新たな懸念も生まれているが、韓国の競争社会の問題点を炙り出す強行策として意味のある指示であっただろう。

健全な大学入試を取り戻せるか

 「修能」(スヌン)と略される韓国の大学入学試験は、日本の大学入学共通テスト(旧センター試験)に相当する。
日本の入試事情と異なるのは、大学ごとに受験生の総合学力を問う個別の試験が新たに行われないため、「修能」の獲得点数が受験生の入学可能な大学を直接的に決定するという点である。
試験の点数は、就職を含むその後の人生にまで大きく影響する。韓国では試験当日に警察官が白バイやパトカーで試験会場まで送り届けたりするなど、例年の風物詩となっているのは周知の通りだ。

■難題が生まれる背景

尹錫悦大統領は「公正な修能」という目標を今年の3月時点に打ち出していた。先月中旬に行われた「修能」の模試で依然として難題が出されていたため先月15日、排除の指示に踏み切ったとされる。
日本の文部科学省に当たる韓国の教育部では、大統領からの指示を受け先月26日に「キラー問題」に該当すると判断した過去3年以内の出題事例を26問公開した(喫緊の6月の模試で出題された難題を含む)。全ての設問には排除すべきと考えられる理由も付されている。
例えばヘーゲル哲学の「弁証法」のような、高校生の教育課程で学習する機会のない高次の設問に対し、背景となる知識の有無を問うようになっていることが問題視されている(朝鮮日報紙による。同日のウェブ版「朝鮮ドットコム」では26問すべてを公開中)。
そのような問題の解法を得るために「学院」と出題者側が結託していると、多くの国内外のメディアが伝えている。
政府としては、「修能」の過去出題者が問題を「学院」と呼ばれる進学系の学習塾に提供し、高額な塾代を受験生の保護者に負担させる構図などを抑止しようとするねらいがある。
家庭ごとの「学院」授業代など、私教育費を軽減することを意図しての指示だったとされるが、「修能」の出題作成を担当する韓国教育課程評価院の院長が発表直後の先月19日に引責辞任を表明するなど、さまざまな余波が生じている。

■難易度の認定に疑問も

「キラー問題」の公開を契機に、出題の難易度を改めて見直す動きも広がっている。ソウルでは市民団体が「キラー」の具体的な条件を掲げるよう、政府へ抗議活動を行っている例などもある。
大学側などからすれば、そもそも学生の能力差を見極めるための試験であるのだから、差別化を図ろうとして高度な知力の有無を「修能」によって問うていた背景があったというのは想像に難くない。
問題とすべきは、「私教育カルテル」などと呼ばれる「修能」側と学習塾の癒着構図であるはずだが、「学院」を名指しして責め立てるのでなく、出題レベルの難易度に焦点を合わせ、入試からの除去を要請したところが今回の尹大統領による指示の肝であった。
韓国の過度な競争社会の問題点を炙り出し、改善に向かうため意味のある指示であったといえるだろう。


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