中国原発の危険性に「沈黙」

韓半島西海に集中する原発群
日付: 2023年06月27日 10時32分

 中国の三重水素排出量は、日本が福島原発の処理水を希釈し海に放出する年間基準値の50倍に達する。これは韓国原子力安全委員会が2020年度分における中国の資料を分析したもので、中国の排出量は22年度における韓国の原発から排出された三重水素総量の5倍に達する。しかし、韓国政府は一貫して「スルー」を決め込んでいる。中国の原発で放射能漏れが発生した場合の対策も何ら示されていない状況だ。                     (ソウル=李民晧)

 仁川から350キロの中国原発

中国は1991年に初めて原子炉を構えた、原子力発電の分野では後発国だ。その後、中国国内で原発は加速度的に増加し、現在では世界3位の原発保有国家となった。国際原子力機構(IAEA)によると、現在中国で稼働している原子力発電所は55基であり、中国より多くの原発を保有している国は米国(96基)、フランス(56基)の2カ国だけだ。現在建設中の施設が完成すれば、中国の原子力発電量は一気に世界2位へと躍り出ることになる。IAEAは2030年に中国が世界1位の原発保有国になるものと見込んでいる。
しかし、韓国の立場から見ると中国の原発は潜在的な危険をはらんでいるといえる。特に、中国の東海岸に沿って原発が設置されている点は懸念を増大させる。韓半島の西海に近接しているからだ。万が一、中国発の汚染物質が漏出すれば、韓国の海域や大気中に流れ込む危険がある。山東省原発の場合、仁川からわずか350キロという近距離で、ソウルから釜山までの距離(400キロ)よりも近い。現在新たに建設中の原発も、韓半島に近接する山東省と遼寧省に設置される。
中国の原発で事故が起きた場合、韓国は直接的な被害を受ける可能性が高い。韓国原子力安全技術院のシミュレーションによると、ソウルから直線距離で970キロの場所に位置する中国江蘇省天湾原発で事故が発生した場合、放射能汚染物質は偏西風に乗り、早ければ3日以内に韓半島上空に到達する。韓半島は中国から飛来する偏西風の影響を受けるため、中国の放射性物質は中国東方に位置する韓国に飛来することになるのだ。

 急増する中国の三重水素排出量

中国が21年に発行した中国核能年鑑について原子力安全委員会が分析した結果、20年に中国内における全ての原発から排出された三重水素の総量は1054テラベクレル(以下T)。これは、日本が福島処理水を放出する際の排出量制限基準としている年間22Tの50倍にも達する。22年に韓国の原発から排出された三重水素の総量214Tに比べても5倍以上に上る。
では、中国の原発から排出された三重水素が海流に乗って韓半島近海に流入する可能性について問えば、その答えは「現時点では問題なし」である。11年に発生した福島原発事故以降、行政安全部は韓国近海の三重水素濃度を測定しているが、「問題視されるほどの数値の変化」は感知されていないという。韓国では現在、全国約231カ所に放射能感知器が設置されている。近海の海域40地点でもモニタリングされているが、ここでは定期的に海水試料を採取し、三重水素やセシウム137などの放射性物質の濃度を検測している。海岸に設置されるという原発の特性上、大規模な放射性物質の漏出事故が起きた場合、当事国のみならず近隣国に甚大な影響を及ぼすことは必至だ。そうした懸念を踏まえて韓国では、韓国・日本・中国の3カ国で協議体をつくり、拘束力のある取り決めを交わす必要性が指摘されている。
現在、関連組織としては「韓中日原子力安全高位級会議(TSM)」が存在しているものの、その実態は各国における原発規制情報の共有にとどまり、安全面においては役に立たない。例えば原発事故が発生しても、当事国は事後報告書を提供するだけで済む。もし韓日または韓中、韓中日間で放射能漏出情報に関する事前の共有体制が整っていたら、5月に韓国政府関係者が福島を視察する必要もなかったはずだ。
一方、韓国政府は中国の原発問題について「ノーコメント」を貫いている。韓国から500キロ圏内に複数の中国原発が建設されているにもかかわらず、原発の安全性や管理体制、事故発生時の協力体制などには何ら前向きな対策を講じていない。国民の命と安全に直結するこの問題に対し、「対岸の火事」を決め込む政府の姿勢には首をかしげざるを得ない。

 


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