韓国の専門家が原発視察

国内世論に苦慮する尹政権
日付: 2023年05月30日 12時16分

 東京電力福島第一原発の処理水海洋放出を巡り、韓国の専門家で構成した訪日視察団が26日、帰国した。今後、視察の分析結果や国際原子力機関(IAEA)の結論に基づいて検討し、韓国側が対応を決める。処理水の安全性が確認されれば、2013年から禁輸措置を取っている福島県産を含む8県の水産物輸入再開の期待が高まるが、韓国国内での根強い懸念の声もあり、尹錫悦政権は難しい舵取りを迫られそうだ。


視察団は韓国原子力安全委員会の劉国熙委員長を団長とし、韓国原子力安全技術院の原発・放射線専門家19人、韓国海洋科学技術院の海洋環境放射能専門家1人の計21人で構成。21~26日の日程で訪日した。22日に東京電力のほか、経済産業省、原子力規制委員会などの関係機関と会議を行った。
実際に現地を見たのは23、24日で、汚染水から放射性物質を基準値以下まで浄化する多核種除去設備(ALPS)のほか、海洋放出前に放射性物質を測定するK4タンク、放出に必要な過程を制御する監視制御室などを確認。25日には経産省、外務省、電子力規制庁、東電の担当者と視察内容を踏まえて総括した。
韓国側は「見たかった施設はすべて見た」と成果を語り、日本側は「必要な情報の提供など、今後もコミュニケーションを取っていきたい」と協力する姿勢を示している。
東電福島第一原発の処理水放出に関して日本政府は韓国調査団に先駆けて、信頼性の高いIAEAに調査を依頼している。6月中に最終報告書がまとまる予定だが、これまで問題点は指摘されていない。G7広島サミットの首脳声明でもIAEAの検証支持を表明している。
韓国国内でも処理水について専門家が科学的見解を示している。17日には与党議員主催の討論会で、大韓放射線防御学会会長を務めた金教允氏が、処理水を海洋放出しても人体に危険はないとの所見を述べた。
汚染水はALPSで浄化しているが、トリチウムは取り除くことができない。しかし雨水や海水、大気に含まれて広く自然界に分布しており、「福島で海洋放出しても、韓国の沿岸到達時には少なくとも、1兆分の1に希釈される。十分に安全なレベルだ」と強調している。
また韓国海洋科学技術院と韓国原子力研究院のシミュレーションによると、福島沖での放出から10年後に韓国海域に流れ込むトリチウム濃度は1立方メートル当たり0・001ベクレルで、現在の韓国海域の10万分の1程度と試算。トリチウムの放射線量は人体にほぼ影響がないとしている。
科学的検証が進み、不安の払拭に向かっていることで在日経済人の間では、韓日での通商に弾みがつくと期待が膨らんでいる。
東京韓国商工会議所の金淳次会長は「事実に基づいた明確な根拠を示し、安全安心を担保してもらいたい。健康被害の不安が解消されれば、水産物の輸出も活発になり、韓日両国にとって良いこと。これを機に2国間の交易が進むことを期待する」と歓迎している。
韓国では着々と処理水放出容認、水産物輸入禁止措置解除へと向かいつつあるが、根強い反対の動きもある。最大野党「共に民主党」は視察団を「検証作業ができない見学団にすぎない」と批判している。大手韓国メディアは「処理水」について、未だに「汚染水」という用語を使って風評被害を払拭する気配がない。
コリアリサーチなど4社共同の世論調査では、「視察団の派遣が汚染水の安全性検証に役立つか」という問いに対して、「役に立たない」と答えた人が過半数の53%となっている。
朴振外相も水産物禁輸については「国民の不安が解消されなければ、解除できない」と慎重な立場を崩さない。
尹政権には科学的事実に基づいた調査・分析と、根気強い韓国世論の説得が求められる。
処理水海洋放出に向けては、日本側にも高いハードルがある。地元の福島県漁連が反対しているためだ。同漁連は出荷前に放射性物質濃度を測定し、安全性を確保した水産物を出荷しているが売れ行きが伸びず、単価も上がらない。
このため風評被害に対する懸念が強い。政府と東電は同漁連との間で、「関係者の理解なしに処理水を海洋放出しない」と合意を結んでいる。日本政府と関係機関も、国内での理解を得る努力が必要だろう。

帰国後、記者団にブリーフィングを行った視察団の劉国煕団長=26日、仁川国際空港


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