デイリーNK高英起の「高談闊歩」第36回

「金氏朝鮮」築くことが金正恩氏の野望
日付: 2023年02月21日 13時31分

金正恩総書記の娘に注目が集まっている。昨年11月、ジュエさんと見られる金正恩氏の娘は初めて公式の場に姿を現した。「尊敬するお嬢さま」と称されたが名前は紹介されず。しかし、10年前に訪朝した米国プロバスケットボール(NBA)の元スター選手であるデニス・ロッドマン氏は「ジュエ」だと明かしている。ジュエさんの公式登場が単なる「娘のお披露目」というより、北韓4代世襲の地ならしの節が見られるだけに、世界中の耳目を集めている。もちろん北韓もそのことを百も承知で彼女を表舞台に立たせている。
現時点で彼女が後継者かどうかを推し量ることはいささか早計だが、後継者候補と見られる材料はいくつもある。例えば「愛すべき」「尊敬すべき」という敬称だ。北韓では、高級幹部クラスになると「朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会●●●書記」など長々と肩書きをつけるのは一般的だが、「偉大なる首領・金日成主席」「21世紀の太陽・金正日総書記」「敬愛する金正恩同志」など、個人を称える敬称付きで呼ばれる人物は限られている。例えば、金与正氏でさえも敬称付きで呼ばれたことはない。
2月8日深夜に行われた朝鮮人民軍(北韓軍)創建75周年閲兵式では、労働党や軍の重鎮を差し置いて父・金正恩氏の側で軍事パレードを観覧した。ジュエさんが着た外套のボタンのデザインは北韓の国章デザインだが、過去にこのボタンの外套を着たのは金日成主席だけだ。
断定はできないものの「後継者ジュエ」は、北韓の今後を占う上で重要な検証材料の一つとして浮上してきた。一部では、男尊女卑が根強い北韓で女性が指導者になることはありえないという見方もあるが、金正恩氏は過去の北韓式伝統を軽視しているようだ。
たとえば就任早々、公開活動に李雪主(リ・ソルチュ)夫人を同伴させた。夫人はその後もファースト・レディとして頻繁に公開活動に顔を出したが、金日成・金正日時代ではありえなかったことだ。
実妹である金与正氏は頻繁に個人名の談話を出すなど、ベテラン高級幹部以上に存在感をアピールしている。歌手出身としてはじめて労働党中央委員会入りした玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏は、秘書のように現場を取り仕切っている。金正恩時代に入って、金日成・金正日時代では異例といえる出来事が頻繁に起きており「北韓はこうだから」という見方が通用しなくなっている。
一方、米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)は「ジュエ」という名前を持った女性を呼び出し、改名を命じたと報じた。過去には、キム・イルソン、キム・ジョンイル、キム・ジョンウンの名前に関して改名指示を出したとされる。娘がジュエだということすら公式発表されていないにもかかわらずだ。
前近代的な個人崇拝は踏襲するつもりなのか、それとも改名指示で「後継者ジュエ」を暗に示唆しているのか。いずれにせよ、金正恩氏の娘の登場で、北韓が民主国家ではなく王朝国家、いわば「金氏朝鮮」を築こうとしていることが明確になったと言える。


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