韓国の世界遺産の中に江華(カンファ)、高敞(コチャン)、和順(ファスン)支石墓群がある。特に江華島で見ることができるものは北方式と呼ばれ足の長いテーブル型で、その美しさは世界一とも言われている。また、足の短い型の南方式支石墓の多くが残っている高敞、和順では足の部分はなくなり、巨石が大地に横たわる様子を見ることができる。いずれも高貴な人々の墓であり、紀元前500年ごろに韓半島に伝わったとされている。
高敞は全羅北道高敞郡にあり、コインドル(支石墓)公園として整備されている。はじめて訪れた時、シーンと静まり返った中に巨大な石と松の木が「ようこそ」とでも言うかのように歓迎された気分だった。26年前の10月、空は高く澄みわたり、心地よい風が舞っていた。江華島に続き、支石墓群が何と多く残っているのだろう!と感激した。青銅器時代に造られた石墓がそこに横たわるだけなのだが、歴史の道を想像することができワクワクした。
|
きつね色に焼き上がったうなぎ |
ボーッと眺めた。相当長い時間だったように思ったのだが、30分ほどしか経っていなかった。穏やかな時間だった。高貴な人たちはこの周辺で暮らしていたのだろうか。それとも、支石墓地としてここを選んだのだろうか。勝手に想像が広がっていった。同行してくれた地元の方から、「お昼はうなぎでも」と言われ、「うな重! それもいいな!」と急に食欲が湧いてきた。
昔から身体に良い食べ物は世界共通なのだろう。どんなうなぎ屋さんなのだろう。韓国を訪れるようになって5回目ほど。まだ、うなぎのかば焼きは食べていなかった。そもそも、その頃は韓国でうなぎが食べられるとも思っていなかった。
地元の人の案内で一軒の店へ。どうやら高敞は韓国で最もうなぎの産地で有名ということで、遠方から訪れる人も多かった。楓川(プンチョン)ウナギというのがこの地の名物と初めて知った。店内は、ほぼ満席状態だが事前に連絡をしていてくれたのだろう、席へ案内されながら食べている様子を見ると、うな重はない! それぞれのテーブルにあるコンロで焼きながら食べていた。それも、コチュジャンベースのタレであった。「何と贅沢な食べ方なのだろう! もったいない」と思いながら席に着くと、そこにはすでにすべてが用意され焼くだけだった。豪快そのもの。地元の人に習い、コンロの上に乗せた網にうなぎを載せ、こんがりと焼き色が付いたら葉物野菜にうなぎとタレを包んでパクリ。葉物野菜はエゴマを選んだ。うなぎの淡泊な味にピリ辛のタレ、エゴマの風味が口の中で優雅に舞い踊っているような味わいである。もったいないと思ったのはどこかへ行ってしまった。地元の人に、「おかずも一緒に食べないと」と言われ、テーブルに並んだバンチャン(小皿料理)を見て、これまたびっくり。小皿というよりは皿。足の長いモヤシがひときわ目をひいた。エゴマの葉にうなぎとタレ、それにモヤシ、タレをちょいと入れひと口大で食べてみた。モヤシのシャキシャキ感とうなぎをタレが見事に調和させている。
その土地によって食べ方はいろいろあるということを知った貴重な時間だった。身体に良いとされるうなぎを、さらに薬効成分をたっぷりと使ったタレと一緒にいただくことでよりよいものになっている。食べることは健康のもと。その時に少しでも身体によいものを意識する薬食同源の世界は、今後ますます注目されるだろう。
※「薬食同源は風土とともに」は今回で最終回となります。長い間ご愛読いただき、ありがとうございました。
新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。