韓国最大のリゾート地として知られる済州島は、標高1950メートル、国内最高峰の漢拏山の噴火によって約5000年前に誕生したと言われている。世界遺産に指定されている城山日出峰や萬丈窟などを訪れると、噴火当時の様子に触れることができる。自然豊かな島は、その昔、耽羅の国と呼ばれ独自の文化を持ち、長い歴史の移り変わりがあっても「島での暮らし方」などにそれらは受け継がれているように思う。
島の魅力は何と言っても豊かな自然と、この島ならではの食にある。豊富な海産物とともに潮風を受けて育てられる豚も希少価値の高さで知られ、島で食べられる豚肉料理も味わい深い。食べ物は島を訪れる度に新しい発見がある。
数年前の7月上旬のこと、「夏休みシーズンには混むから今のうちに来て!」という釜山の友人の誘いを受け、済州島で合流したことがある。済州島出身の友人は「必ず案内したい」と言い続けて16年。彼女は忙しい日常を調整し、大張り切りの電話であった。せっかくだからと思い、仕事抜きで済州二泊三日の滞在を楽しんだ。島については取材を通して理解していたこともあり、名物の食べ物も一通りは知っているつもりであった。
初日の夕食時になり、友人が「チゲを食べよう」と言い出した。「暑いのに?」と不思議に思っていると「暑いから身体の中から温めて汗を出した方が健康にいいから。豚肉に日本の納豆に近い物が入ったチゲだから絶対に食べよう」と譲らない。
友人が薦める店に向かう途中「納豆汁みたいなチゲは冬にソウルでも江原道でも食べたけど、豚肉は入っていなかったような」と主張した。友人は笑いながら「だから済州島の豚肉入りチョングッチャンチゲを食べてみて。夏バテ防止にもなるし、大豆を発酵したものだから日本人も好きでしょ。まずは食べて!」と。
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食欲をそそるチョングッチャンチゲ |
店内に入ると食欲をそそる納豆のにおいでいっぱい。友人が我が家のように慣れた様子で注文をすると、店主らしき人が「店で一番人気のメニュー」と話してくれた。グツグツと音を立てるチゲが運ばれてきた。小皿料理の他に海産物を和えたものなど数種のおかずも並んだ。
まずはチゲのスープを飲んでみた。「うわぁ!」と思わず声が出た。味噌と発酵した大豆(納豆)が絡まり、さらにそれらを豚肉の出汁が深みのある味わいにしている。分厚く切った大根にすべての出汁が十分にしみ込み、しかも柔らかく煮崩れもしていないのだ。ご飯がすすんだ!
友人は「チョングッチャンチゲはどこででも食べることができるけど、こういうスタイルはあまりないと思うから」と話しながら「疲れも取れるし、食欲も出るでしょ。暑い時ほど身体にいいと思うから。大根は消化を助けるしね」と。
知っているつもりでも所変われば味もいろいろだということを痛感した。発酵食品と豚肉の組み合わせ。それに大根やシメジなどたっぷりの野菜が入ったチゲは、まさに暑さ対策になると学んだ旅であった。
新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。