暑い夏がやってきた。まだまだ続くコロナ感染に、今年はさらに電力不足も心配になってきた。
コロナ禍になるまでは、韓国と日本を行ったり来たりというのが当たり前であった。今ごろの季節は秋に発行する本の取材が目的で訪れることが多く、滞在中は現地スタッフとともに仕事に取り組みながら、何よりの楽しみは食事である。
15年ほど前の夏のこと。
その時の取材目的は「伝統料理を現代風に」ということで、家庭料理に焦点を当てていた。済州・釜山・全州・大邱・安東そしてソウルを回りながら、家庭料理を出す店と地元の方々に話を聞いていた。
大邱で遅めのランチを取ろうと立ち寄った店でポッサムとジョンなどを注文した。昼過ぎということで店内には女将さんらしき人がのんびり休憩をしていた。厨房に注文を伝えた女将さんが近づいてきて「ポッサムは家でも作れるから簡単に教えますね。お客さんが混むのは夕方だし。暇だから」と言いながら家庭での作り方を教えてくれた。
豚ロースのかたまりをタコ糸でしばり、鍋にたっぷりの水と香味野菜と塩を入れ、豚肉にしっかり火がとおるまで1時間ほど茹でる。茹で上がったら余分な脂分をさっと洗い流し、布巾で包んだら二つのまな板で挟んで軽い重しを乗せて粗熱が取れるまでおく。まな板をはずし四角形ふうの状態を崩さないように冷蔵庫に入れ、2時間ほど置いて完成。
作り方のメモを取っていると、注文をしたポッサムがキムチとともに大きめの皿に盛りつけられテーブルに運ばれた。「ポッサムとキムチはセットなのですか」と尋ねると、「昔からポッサムは白菜キムチを挟んで食べる習慣があって。決まりでもないけど、キムチはつけダレの役目もするし、酸味や辛味、塩味などもあるから」と言いながら、お手本のようにポッサムの間にキムチを挟んで食べ始めた。
「うちのは旨いですよ」と笑いながら、「ポッサムはさっぱりもしているけど、ほどほどの脂身があるのでパサつかず食べやすいから食欲が落ちてしまう夏にもいいし、パワーもつくからいつ食べてもいいもので便利ですよ。韓国ならどこででも食べることができるし、店によって味もいろいろだから。昔は冷蔵庫もなかったから、ポッサムにすると一日は持ったからね。働いた後に焼酎で一杯やる時にはもってこいのおつまみで」と話してくれた。
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ソウルの友人から届いた写真。ゆで豚肉とキムチの最強コンビからあふれるパワー |
俄然、ポッサムに興味がわいてきた。済州では、まな板のような物で出され、ソウルでは、そうめんと一緒の皿に。釜山では、つまみとしてキムチやイカのコチュジャン和えとともに。
タンパク質をはじめ栄養価に富んだ豚肉を酸味・辛味・塩味など豊富な栄養分を含む熟成されたキムチとともにいただくポッサムは、シンプルな料理ながら力強い一品である。茹でる時に塩の他にネギやニンニクを入れ、余分な脂を落とし、さっぱり感とともに豚肉の旨味が残るように脂身もきちんと入っている。
食欲が落ちやすい暑い時期になると、ポッサムとキムチの最強コンビを思い出す。水分補給とともに今年もポッサムを作り、キムチは行きつけの韓国惣菜店で買い求め、韓国へ思いを馳せながら数種の葉物野菜などを盛ってテーブルに。そうめんとポッサムとキムチは、発汗作用もあるためか、疲労回復にも役立っているように思う。
新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。