【BOOK】『世の中に悪い人はいない』(ウォン・ジェフン著/岡崎暢子訳)

日々の疲れをいやすような不思議な世界 優しく心を包みこむ3章からなる短編集
日付: 2022年06月21日 12時34分

 「世の中に悪い人はいない」―表題となる作品のタイトルに性善説を説くありきたりの物語かと首を傾げる読者がいるかもしれない。だが心配は無用だ。これは、イヌが支配する惑星のとある国営放送の新番組の名称で、正確には「この世に出来の悪いニンゲンなどいない」になる。それでは、このようなファンタジーめいた話が続くのだろうか―そう思った読者も心配はいらない。その後の語り部は著者を彷彿とさせる50代にさしかかった男性がメインだ。ときに整形外科医、小説家、バリスタ、心療内科医など、自在な姿で登場する。魔法使いという設定もある。
本書は三部構成だ。第二章のタイトル「願いを聞いてあげる家」の舞台は心療内科医のKが開業した心理相談所のようなクリニックだ。人は自分の願いを話すためにやってくる。Kは「聞いてあげる人」に徹しながら、どのように手助けできるのかを探っていくのだ。ある日、不思議な老人がやってきて、Kに他人の願いを実際に叶えられる力を授けるが…。
第三章の主人公はキリギリス通りに住む小説家である。日々のエピソードからは、小さな擦り傷を覆ってくれるような慰めを得ることができる。本書はページをめくるたびに魔法にかけられる、不思議な本なのかもしれない。
KADOKAWA刊
定価=1540円(税込)


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